綺良「……私が、ほとんどの人を苗字で呼ぶことと、さん付けなこと。長い付き合いやから慣れてるとはいえ、不思議に思ったことあるやろ?大体の事情は見透かされとるかもしらんけど」

 

茉里乃「まあ……何か理由があるんやなとは、感じとった」

 

綺良「それで……うん……えっと……」

 

 自分が言おうとしたことが、ひどい暴論だと思えてしまって言葉に詰まった。

 

 でもやっぱり、彼女にだけは言いたかった。

 

綺良「……すごい、偏ったこと言うけど……ええ?」

 

茉里乃「何でもええよ。好きに喋ったらええわ」

 

 自分でもびっくりするくらい弱気になっている私に、彼女は当たり強めに返してくれる。

 

 私はこうして何年も、彼女に励まされてきた。

 

綺良「私な、ずっと……呼び捨てとか、下の名前で呼んだら、嫌でも情が沸いてまうと思っててん。暴論なのは分かっとるんやけど……でも名前って、どう呼んでたかも、どう呼ばれてたかも、ずっと記憶に残るものやから……後先のことを考えて、情が湧かないように、苗字呼びと、さん付けで過ごしてきた。それが____」

 

 彼女の瞳が、真っすぐ私のことを見ている。

 

 きっと私が次に言うことは、もう分かっていることだろう。

 

綺良「後悔しない方法だと思っとったから」

 

 彼女なら、分かってくれる。彼女だから、分かってくれる。

 

 そう思って、私は続ける。

 

綺良「でも、私は後悔してる……後悔してしまってる……茜さんのことをお姉ちゃんって呼ばなかったこと、呼べなかったこと……菅井さんも、他のメンバーに対しても、苗字呼びとさん付けを卒業できなかったこと……」

 

 でも、後悔していることはそれだけじゃない。

 

綺良「それに……情が湧いてしまう後悔と、ちゃんと名前を呼べなかった後悔……どっちの方が、自分の相手も苦しめないか……それも分からんくなってもうた……」

 

茉里乃「……後悔しない、なんて。そんな綺麗事……あるわけないやろ」

 

 思いのほか、早くに言葉が返ってきて、私は滲んだ視界のまま彼女の方を見た。

 

茉里乃「一緒に笑って泣いて、一緒に暮らして戦って……そんな風に過ごしてたら、嫌でも情なんて沸いてまうわ。情が湧かへん方法を探す方が、世界平和を目指すよりも、難しい、と……思うで……」

 

 ふと気づけば、彼女の声が震えていた。

 

 私も彼女みたいに適度な相槌を打てればいいのだけれど、あいにく私にはそんな高テクニックなんて持ち合わせていなかった。

 

茉里乃「応援に駆けつけたとき……どうせ大したことはないやろって、思っとった……油断しとった。でも……倒れてる綺良ちゃんを見て、心臓が今までにないくらい、バクバク言っとった。もしものこと……最悪のことを考えたら、震えが止まらなくて……怖かった……冷静を装うので精いっぱいで、本当に……怖かった……」

 

 そのときのことは、気を失っていたから覚えていないけれど、彼女の気持ちは痛いほど分かる。

 

 茜さんとのときも、怖くて仕方がなかったから。







投稿が途切れてしまって

ごめんなさい!!


結末に向けて試行錯誤し

色々修正していた結果、

このような事態になってしまいました……


楽しみにしてくださった方には

本当に申し訳ないです、、


残り数話という僅かな間ですが

よろしくお願いいたします!!


以上、ゆちでした!!(_ _*))