「やっぱり、ここにおった」

 

 草原に大の字で寝そべっていると、頭上から声がした。

 

 声を聞かなくても、近づいてきた気配で彼女が誰なのか____幸阪茉里乃だということは分かっていたけれど。

 

綺良「……やっぱり、ここに来ると思ったわ」

 

茉里乃「お見通しやな」

 

 彼女は微笑みながら、私の隣に座った。

 

 何も躊躇せずに座る姿が、彼女のまとう雰囲気には似合わないと思ったり思わなかったり。

 

 そんな細かいことを気にして、口に出すほど窮屈な仲ではないけれど。

 

茉里乃「災難やったな……お疲れ様」

 

綺良「何が聞きたいん?」

 

 お互い言うこと聞くことはお見通しだから、私がこう言うことも彼女には分かっていただろう。

 

 むしろ、彼女は私のこの言葉を引き出すために、ああ言ったのかもしれない。

 

茉里乃「……言いたいこと、聞きたいことは色々あるけど……とにかく、無事で良かったわ」

 

綺良「まあ……村山のおかげやけど」

 

 私が今ここにいるのは間違いなく、村山のおかげだ。

 

 村山がいなければ、今の私はきっと色んな意味でここにはいないだろう。

 

茉里乃「村山ちゃんからしてもきっと、それは同じことなんやろな」

 

綺良「……せやな」

 

 彼女の言う通りだと、自分でも分かっている。

 

 私と村山のこの関係はやっぱり、私とあの人に似ているから。

 

茉里乃「____今、茜さんのこと思い出しとったやろ?」

 

綺良「何かアカンか?」

 

茉里乃「何も。ただ……私たち全員、茜さんのことは決して忘れてないし、村山ちゃんと綺良ちゃんのことを見て、茜さんと綺良ちゃんみたいやなって、思っとる人もいると思うで」

 

綺良「……あの鬼軍曹と私を一緒にせんといてや」

 

 自分で思っておいてあれだけど、私が茜さんみたいなんて恐縮すぎる。

 

茉里乃「まあ……村山ちゃんに対しては綺良ちゃん、鬼軍曹みたいやけど、綺良ちゃんにとっての鬼軍曹は、茜さんだけやもんね」

 

綺良「後悔、しかないけどな____「それはちゃうやろ」

 

 彼女がピシャリと私の言葉を遮った。

 

 もちろん、そんなことは言われなくても分かっている。

 

 私が茜さんのことを思い出したとき、真っ先に抱く感情が後悔なだけ。

 

 茜さんとの思い出は、まだもう少し____いやたくさん、あったから。

 

茉里乃「考えたくはないけど……万が一のことがあったとき、村山ちゃんに対してもそうなるつもりなら……私死んでも恨むからな。地獄まで連れ回してしばく」

 

 考えたくはない万が一のことを考えると、勝手に体全体が震えていく。

 

 思い出がたくさんあるのは、村山も同じだ。

 

 そう思っているから、分かっているから……こそ。

 

綺良「……村山対しては……村山にだけは、後悔しないように、とは思っとるけど……」

 

 自然と声が震えた。それはきっと、彼女にも伝わっていると思う。

 

茉里乃「うん」

 

 私の心情を全て見越して、彼女は相槌だけを打つ。

 

 私が何かを真剣に話すときはいつだって、彼女は私が話しやすいようにしてくれる。

 

 だから、彼女の前では……今日だけは……素直になっていいかなと、いつも思ってしまう。