茜「ねえ!もしかして、一人なの?」

 

 焼け野原になった家のそばで、私は一人うずくまっていた。

 

綺良「……ぇ?」

 

 声がした方に顔を上げると、そこには一人の女性____茜さんが立っていた。

 

茜「ええっと……家族、は?」

 

綺良「……みんな、巻き込まれた。魔法に」

 

 茜さんが私の隣に腰かける。

 

 普段、そこまで人に心を開くタイプでもないけれど、私は自然と茜さんに言葉を返していた。

 

 多分というか……絶対。心が弱っていたから、自分で少しずつ話し始めただけなんだけれど。

 

 小さな町の、小さな魔法戦争だというのに、運悪く私の家族は巻き込まれ、命からがら私だけが助かった。

 

 助かったという事実は喜ばしいことだけど、身内がいなくなってしまったなら何も意味がない。

 

茜「それは……とても、大変だったね」

 

 茜さんが私にもう少し近づいた数秒後に、焼け焦げた灰の臭いが風にのってやってきた。

 

 その臭いが、自分のものなのか茜さんのものなのかは分からなかった。

 

 私の服も茜さんの服も、破れたり汚れたりしていたから。

 

 自分のことはどうでもよかったから、清楚だけど明るそうな茜さんには似合わないな、と子供ながらに感じた。

 

 そして茜さんもきっと、私と同じなんだろうなと、直感的に思った。

 

綺良「お姉さんやって……大変、やったやろ」

 

茜「まあねー。そりゃ、みんな大変だよ。でもね、大変だから辛いって思ったら、それで終わりだと思わない?だから、私も君も、希望を持たないと」


綺良「希望……?」

 

 希望。それは、はるか遠い、私には関係のない、縁のない言葉に聞こえた。

 

 少なくとも、今の私の置かれている境遇になんて、希望はなかった。

 

綺良「……あ、めだ」

 

 私の心のうちを表していたかのような空が、雨を降らせないわけがなかった。

 

 あっという間に雨足が強くなると、肌寒さを感じるようになった。

 

 ああ、これが、私にしか味わうことのできない、生きている証拠なんだなと思った。

 

茜「……ファイアリィ」

 

____ボッ

 

綺良「……火?」

 

 すると茜さんは、私に火の魔法を繰り出した。

 

 そして私の目を真っすぐ見てから、言葉を続けた。

 

茜「今はまだ、この火は小さな火……小さな希望なの。でも、いつかは大きな火になって、希望になって、私たちを必ず笑顔にしてくれるの」

 

綺良「……ほんと?」

 

茜「約束するよ」

 

 茜さんが小指を差し出したから、私もゆっくりと自分の小指を絡めた。

 

 指切りげーんまん、と茜さんが歌いだして、私たちはしっかりと約束を交わした。

 

茜「じゃあ……帰ろうか」

 

綺良「え……?」

 

 茜さんは立ち上がると、次は手を差し伸べた。

 

 でも私には、その言動の意味が分からなかった。

 

茜「帰るよ、家に。一緒に」

 

 私が恐る恐るその手を握ると、茜さんはしっかりと握り返してくれた。

 

 だから私も、子供ながらにしっかりと握り返して、茜さんについていった。

 

 

 ____それが、私と茜さんの出会い。

 

 そして、村山と私の出会いに繋がるきっかけになった。