小田倉「よっ、と……」

 

美羽「麗奈ぁ~。フライ、教えてぇ~」

 

 無事、地上に戻ってきた麗奈に私はさっそく抱き着く。

 

小田倉「おぉ……どしたの美羽、増本さんに教えてもらってたんじゃないの?」

 

美羽「……ただでさえ不器用な私が、増本さんのあの説明で習得できると思う?」

 

小田倉「ああ……無理、だね」

 

 他の三期生にも、擬音語であーだこーだと説明している増本さんを見つめる。

 

夏鈴「……代わりにちょっとお仕置きしわるわ」

 

美羽「……ぇ?」

小田倉「藤吉、さん……?」

 

 背後からひょこっと現れたかと思うと、不穏な一言を残していく夏鈴さん。

 

夏鈴「……ムーブ!」

 

 増本さんの腕をがっしりと掴み、夏鈴さんは呪文を唱える。

 

 ムーブとは、限られた場所ではあるけれど、瞬間的に移動できる魔法だ。

 

綺良「え、ちょっと。藤吉さん?藤吉さん!?どこ行くんですか!!何するんですか!!」

 

夏鈴「私も特訓しようと思ってなぁ……ちょっと付き合ってほしいねん……」

 

____シュッ

 

 その後の増本さんの反応を聞くことなく、夏鈴さんは増本さんを連れてどこかに行ってしまった……

 

美羽「え、夏鈴さんっていつもあんな感じなの?」

 

小田倉「いつも、っていうか……増本さんといるときはちょっと波長乱されてる感あるけど、今日は形勢逆転みたい」

 

美羽「ふーん……」

 

 つい最近聞いた話だけど、夏鈴さんに連れられてきた麗奈は、増本さんとも少し交流があったらしい。

 

 それも、増本さんが夏鈴さんと仲良しで、ちょくちょく藤吉さんの家に遊びに行っていたからとのこと。

 

 ……私のことは置いてけぼりにして。私だけ仲間外れにしたんですかね。

 

 ちょっと不服だけど、ここは黙っておくか。


 増本さんにまた、あーだこーだと言われたくないし。


美羽「ていうかそれより、フライ教えて!私多分、麗奈に教えてもらわないと一生習得できない気がする」

 

小田倉「……それ、研修学校のときも言ってなかった?その台詞、何回も聞いた覚えがあるんだけど」

 

美羽「……だって麗奈、成績優秀じゃん。頼れるの、麗奈しかいなかったんだもん」

 

小田倉「昔も今も変わらないねえ」

 

美羽「それは三期全員一緒でしょ」

 

小田倉「まあね……まるで研修学校に戻ってきたみたいだもん」


 何やら盛り上がっている、三期生たちを見やる。




純葉「愛季のモノマネしまーす!……ソード!えいやぁぁぁ!!」


凪紗「私瞳月ー!!……シールド!あ待って間違えた、ストップストップぅぅぅ!!」


 どうやら純葉と凪紗による、モノマネ大会が始まったようだ。


 内容はもちろん、さっきの愛李と瞳月。


愛季「ちょっとぉ!!モノマネするのはいいけどさぁ」


瞳月「ひかるさんのこといじったら____「ウィンディ!!」


 瞳月が言い切るその前に、何者かが乱入した。


瞳月「ちょっと!?」


優月「セーフ……危ない危ない」


 どうやら優月が、瞳月の言葉を待たずして森田さんの真似をし始めた模様。


愛季「言わんこっちゃない……」


純葉「森田さんっ……!!……お目目きゅるきゅるっ」


凪紗「ありがとうございます!!……きゅるるんっ」


瞳月「こらー!!バカにしとるやろー!!」


 お目目がきゅるきゅるだったのは事実なのだから仕方ないだろう。




 一方、少し離れたところでは。




美青「ア゙ア゙ッ……由依さんいい匂いッ……今日も可愛いッ……」


由依「ねーちょっと。暑いんだけど……」


 美青が小林さんにまとわりついていた。


美青「ハグしてもらってもいいですか……?」


璃花「もう抱きついてるじゃん」


由依「ねえ……許可取る意味よ」


 美青のその言動に、その場にいる誰もが呆れていた。


優「あの、緒に住んではいたんですよね?」


由依「いやほんとだよ……なのにいつまで経ってもオタクみたいなの、そろそろやめてくれない?」


 そう。私と増本さんと同じように、美青だって小林さんと長い年月を過ごしてきたはずだ。


 なのにずっと小林さんオタクとは……流石としか言いようがない。


美青「由依さんの方こそ、これ以上可愛くならないでください。心臓が持ちません」


由依「どこでそんな言葉覚えたんだかねぇ……」


理子「まあでも、研修学校の頃からオタク気質なところはあったので……」


由依「とにかく!特訓やるよ、美青。みんなも一緒にやろ?私が教えるから」


璃花「ほんとですか!?」


理子「やったぁー!!」


優「ありがとうございます!!」


美青「えだめですだめです。私にだけ教えてください。由依さんは私のものです」


由依「美青、だからねぇ____」


 流石だなぁ、と思いつつ、やっぱり呆れたの一言しか出てこない。


 それはきっと、私もみんなも、由依さんも一緒だ。


 そしてやっぱり全員、あの頃から変わってないと確信する。


 私が大好きな仲間は、大好きな仲間のまま成長し、今でも変わらない仲間であった。



 

美羽「……本当に変わってないね」

 

小田倉「少しは大人になったはずなんだけど、そう簡単には変わらないか」


美羽「……でも、私たちにはちゃんとやるべきこと、守るべきものがある。そこだけは変わった気がする」

 

小田倉「うん、そうだね」


そこがきっと、みんなが成長した部分だ。 


小田倉「……だからこそ、美羽は私依存から卒業すべきじゃない?」

 

美羽「そもそも依存してないから!!頼ってるだけだし!!」


 頼っているだけなのに、依存と呼ばれるのは心外だった。


 まあ傍らからそう思われても、納得しちゃうくらいに、私は麗奈のことを頼り続けていた。


 でもこれからは、環境も変わったことだし。


美羽「……まあ、一人でもこなせるようには頑張るけど……」

 

小田倉「よしよし。研修生のときには見られなかった、その意気だ!」

 

美羽「……やっぱり私のことバカにしてるよね?」


 まんまと麗奈の言葉にはめられた。

 

小田倉「文句あるなら教えないよ?」

 

美羽「……増本さんが帰ってくるまでに習得するから、フライ早く教えて」


 やっぱり、麗奈に頼る日々はこれからも続きそうだ。

 

小田倉「はぁーい」


 増本さんより何倍も丁寧な説明を受けながら、私は特訓を再開した。


 

 同期とも、先輩とも、協力しながら、キャッキャしながら魔法を習得していく。

 

 研修学校の頃よりも、身が引き締まる思いだけど今が一番楽しい。

 

 月日を重ねていくごとに、より一層頑張ろうと思える毎日だ。