こうして私と増本さんの、二人の生活が始まったわけだけど。

 

 出会いに収まらず、日常生活も奇妙なことばかりだった。

 

 一つ目は、互いの呼び方、というか……存在意義?

 

綺良「村山ぁ、お腹空いたぁ~……」

 

 増本さんがベッドの上で寝転びながら、足をバタバタとさせる。

 

 私はというと、肉まみれでベタベタな手を必死に洗い流していた。

 

綺良「村山ぁ……村山ぁー!!」

 

美羽「もー分かりましたって!!今ハンバーグ作ってますから!!埃舞うので足バタバタさせるのやめてください!!」

 

 ちなみにでもないけれど、私は料理が大の苦手だ。

 

 増本さんに比べたらまあ……できる方だとは思うけど。

 

美羽「……あっつ!!」

 

綺良「そんな上から肉落としたら、油はねるに決まっとるやん。村山、馬鹿やな~」

 

美羽「馬鹿なのは認めますけど、そんなに人の料理に口出すんだったら増本さんがやってくださいよ!!」

 

 ……と毎日口論している、という話ではなく。

 

 村山。増本さん。

 と呼ぶ関係についての話。

 

 自分でいうのもあれだけど、下の名前で呼ばれるものだと思ってた。

 

 名前を聞かれた後すぐ、村山、って呼ばれたから当時は変に思わなかったけど。

 

 今やお姉ちゃん、というかお母さんみたいな存在なわけだから……

 

 ちょっと他人行儀なところがあるなぁ〜と、時々思うわけで。

 

 とは言っても、出会ってから何も進展はありません。

 

 下の名前で呼ばれたこと、全くありません。

 

 まあでも、そうやって変わらないところも増本さんらしい、というか、私たちらしい気もするけれど。

 

 ……なんて言ったら照れちゃうけど、増本さんも照れるかな。

 

綺良「村山ぁ~早くぅ~」

 

美羽「もう少しでできますから、皿でも並べといてください!!あと、料理にいちゃもんつけたら一生作りませんからね!?」

 

綺良「……村山、家庭科の評定なんぼだったん?そんなひどかったん?」

 

美羽「何にもできない不器用馬鹿でごめんなさいね!!何でもできる人がいたら私もそれなりにできるんですけど!!学校は学校、家は家なので!!」

 

 そういえば……懐かしいな。学生時代。

 

 言うて、高校を卒業したのはつい最近のことなんだけど。

 

 私が懐かしんでいるのは、中学生時代の話。


 それに中学校ではなく「研修学校」という、中学校とは別の学校の話だ。


 研修学校は見習いの魔法使いが集う学校で、増本さんに魔法を教えて貰いつつも、私はそこで本格的な技術や知識を手に入れた。


 そしてそこには、私と同じように集められた見習い魔法使いがいた。

 

 何個かクラスがあったうちの、私を入れて十一人しかいなかった、数少ないクラスメイトたち。


 中学校の方で良好な関係を築けていなかった私にとって、大切な居場所で仲間だった。


 とにかくみんなを明るく盛り上げてくれる子や、ちっちゃくて可愛い子がいたり。

 

 魔法も料理も何でもできちゃうお嬢様もいたしなぁ……

 

 そんな彼女たちがいればちゃんとした料理作れるはずだ。

 

 今みんな、どうしてるのかなぁ……

 

美羽「はい!!できましたよ!!熱いから気を付けてくださ____「あっつ!!」

 

美羽「だから言わんこっちゃない……」

 

 増本さんにも、時々思い出して懐かしめるような、仲間みたいな方はいらっしゃるのだろうか。

 

 あんまり自分語りしないし、ずっと私のそばにいてくれるからなぁ……

 

 私も、料理くらいはできるようにならなくちゃ。