小説「新・人間革命」〉 暁鐘 三 2017年9月2日




 法悟空 内田健一郎 画 (6164)

 木々の緑を縫い、さわやかな薫風が吹き抜けていく。五月十七日午後、山本伸一が出席し、フランクフルト市内のホテルの庭で、ドイツ広布二十周年を記念する交歓会が行われた。これには、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、オーストリア、イタリア、そして日本から訪独中の親善交流団も含め、八カ国約八百人が集って、世界広布への誓いを固め合った。
 庭には、ステージが特設され、日本から世界広布の大志をいだいて渡独し、炭鉱で働きながらドイツ広布の道を切り開いてきた青年たちの苦闘などが、ミュージカル風に紹介された。彼らのなかには、初めて炭鉱での労働を経験した人が多くいた。肉体を酷使し、疲れ果て、食事の黒パンも喉を通らぬなかで、自らを叱咤して学会活動に励んだ。
 彼らの胸に、こだましていたものは、伸一が一九六三年(昭和三十八年)の『大白蓮華』八月号の巻頭言に綴った、「青年よ世界の指導者たれ」との万感の呼びかけであった。
 この青年たちをはじめ、草創期を築いた勇者たちの行動と努力が実り、ドイツにも数多の地涌の菩薩が誕生したのだ。「新しき世紀を創るものは、青年の熱と力である」(注1)とは、戸田城聖の大確信であった。
 ステージでは、後継の少年少女が登場し、希望の五月を迎えた喜びの歌を合唱。大喝采を浴びた。
 登壇したドイツ理事長のディーター・カーンは、感極まった顔で語った。
 「十六年間の夢が、遂に、遂に、実現しました。山本先生が、こうして、わがドイツにいらしてくださったのです!」
 彼らは、日本で宗門僧らの学会への不当な仕打ちが続いてきたことを伝え聞いていた。「それならドイツの私たちが広宣流布を加速させ、世界広布の新天地を開こうじゃないか!」と、果敢に活動を展開してきたのだ。
 ドイツの大詩人ゲーテは、「合い言葉は戦い 次の言葉は勝利!」(注2)と詠っている。それは、まさに皆の心意気であった。



 小説『新・人間革命』の引用文献
 注1 「青年訓」(『戸田城聖全集1』所収)聖教新聞社
 注2 ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ著『ファウスト第二部』池内紀訳、集英社


聖教新聞より転載