清新  二十五



山本伸一(やまもとしんいち)が、青森市(あおもりし)を訪れたのは七年半ぶりである。

青森文化会館は前年十二月に落成したばかりの新会館であった。
ロビーに入ると伸一は、県長の加取伸介(かとりしんすけ)に言った。
「すばらしい会館ができたね。さあ、ここから青森の新しい歴史の幕を開こう!」
そして、休む間もなく、二階の大広間で草創期(そうそうき)からの青森県の功労者、そして秋田県(あきたけん)の代表ら百五十人ほどとの懇談会に臨んだ。
「おばんでございます!」
東北風(とうほくふう)の伸一のあいさつに場内は沸いた。
「皆さんは、苦労され、頑張ってこられたんだから、今日は堅苦しい話は抜きにして、歌でも歌って楽しくやりましょう。
さあ、どなたか、歌ってください。ただし学会歌以外にします」




年配の男性が古い歌謡曲を歌いだした。

皆が手拍子を打つ。空気は一気に和んだ。
次から次へと立ち上がり、「八戸小唄」「黒田節」と歌いだす。

青森支部の初代支部長の金木正(かねきただし)が、もう一人の壮年と「佐渡おけさ」を歌った。
「うまいね! アンコール、アンコール」
伸一の言葉に、金木は直立不動で、「それでは子どもの時代に戻りまして『ハトポッポ』を歌います」と言って、両手を左右に広げ、羽のように動かしながら歌い始めた。
金木は税理士をしており、謹厳実直で冗談一つ言わぬだけに、皆の驚きは大きかった。
さらに、東北地方に伝わる数え歌を、箒(ほうき)を手にして踊りながら歌い始めた。
「カンカラカンとカンマイダ 一羽もしんじょ……」
皆、腹を抱えて大笑いし、声を合わせる。
伸一は東北長の山中暉男(やまなかあきお)を呼んで言った。
「みんなの顔を見てごらん。

あの目を見てごらん。

本当に嬉しそうじゃないか! 

この顔を絶対に忘れてはいけないよ。

楽しく自由にやれば、みんな生き生きと頑張るんだよ。

そうすれば、東北は全国一になる。

みんなの喜びを引き出していくのがリーダーだよ」




     =2016年7月13日・聖教新聞より転載=