日本の農業開く ITの力 その③
ーボタン一つで伝票。消費者と結ぶ「やさいバス」、地域で効率流通ー
 地域の生産者と利用者をつなぐ共同配送物流システム「やさいバス」を17年に始めました。地域にいくつかのバス停をつくり、バスと呼ばれる保冷車がそのルートを巡回します。生産者はその日の朝に取れたばかりの野菜を農地近くのバス停に持ち込むと、バスは町の中にあるバス停に向かいます。バス停は銀行や郵便局などに設置しています。そこで地元の飲食店や小売店の人たちが注文していた野菜を受け取るという仕組みです。
 野菜を売り買いするEC(電子商取引)サイト、物流会社と連携するITシステム、消費者とやりとりするSNS(交流サイト)の三つをベースにして、それぞれの地域の中で効率的に野菜を流通させることができます。静岡で始めてから6年目。今では11都道府県にまで広がっています。
 

 ITを使えばボタン一つで出来るのに、請求書に複写の伝票を使って月末になるとその整理が大変になるという農家がいまだに少なくありません。日本の農家のDX(デジタルトランスフォーメーション)化は非常に遅れています。意識改革をしなければ、いくら行政がDXに資金を出しても、一部の人にしか伝わらない仕組みになってしまいます。やさいバスには、農家の人たちにITの入り口を見せるという役割もあります。ITの便利さを体験すれば、そこからドローンや農業ロボットの活用、収穫予測などどんどん可能性が広がっていきます。
 

 もう一つ意識しているのはコミュニティー作りです。安心して課題を共有できる場所を作る必要があります。やさいバスがそのきっかけになればと思っています。若い新規就農者はなかなか増えません。農地を貸している人や地域が優しく受け止めることができないのが一番の課題です。ちょっと道路を汚したり、あいさつしなかったりしただけで文句が来る。地域が若者にチャンスをあげて失敗も少し許容してあげるという雰囲気を作っていかないといけないのです。                      その④へ続く