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うつ病の60代の男性が
「仕事疲れの為、1週間の休養入院」
として、入院になりました。
入院での持ち物チェックでは
・刃物、先端が鋭利なものなどの危険物
・ベルト等、長さのあるもの
は、自傷他害防止のため、
ご家族に持ち帰っていただきます。
患者様とご家族、担当看護師
3名で持ち物チェックをしていたところ、
その方(以下Aさん)の持参した
シューズがヒモ付きのものでした。
『ヒモのものは使用出来ない』ことを説明すると、
Aさんは家族と相談。
「明日、別の履き物を持ってきてもらいます」
との話になり、
一晩だけ持参したシューズを使用することになりました。
Aさんの入院は、医師の指示で
『4人部屋で、私物は自己管理可』だったため、
(状態によっては医師の判断で、個室、施錠管理、
拘束、入院時の抗不安薬の注射…と様々)
「一晩なら大丈夫だろう」と判断し、許可しました。
入院時のAさんの表情は
疲弊はしていたものの柔和だったことを
よく覚えています。
翌朝、出勤するなり
「師長、早く病棟あがって!!」と声がかかり、
私は、嫌な予感しかせず、
全身をざわつかせながら
慌てて身支度をし、病棟へ向かいました。
夜勤者から、
「Aさんが個室トイレで首を吊った」
と報告を聞いた瞬間、
「…やられた…」
咄嗟に思ったのは、その言葉でした。
Aさんはトイレのドアの内側で、
両足のシューズのヒモを繋いで縛り
首を吊って死亡しました。
警察や鑑識が入り、
前日からの出勤者の全員の指紋をとり、
現場の写真撮影、事情聴取を受けました。
監視カメラでは、
早朝にAさんがトイレに入ったまま、
出てこないことが確認されました。
「昨日のチェックの時点でシューズを返却していたら、
こんなことにはならなかった」
「行動制限の指示があれば、シューズを持たせることは
なかったのに」
自責と他責で、私の頭の中はいっぱいでした。
病院の職員の目が私のことを責めているように見えたり
同情されているように感じました。
後日行われたデスカンファレンスでも、
事の経緯を説明し、次へのの予防策を話す間も
同じ気持ちでした。
自殺することを選んだAさんの心情、
「もう自殺する前提での入院だったのではないか」ということ、
私もうつ病を患い、自殺を考えたことのある者として、
看護師として、
色々な視点で、Aさんのことを今でも振り返ります。
私は自死を悪いとは思っていません。
自死での死亡が、その方の人生全てが
悲しかったもののように捉えがちですが、
決してそうではなかったはずです。
Aさんも死にたくはなかったはず。
『死ぬしかなかった』のではなく
『生きていくこと』が、出来なくなったのだろうと。
進む道が見えたなら、光が見えたなら、
きっと生きたかったはずです。
この人生をかけて何を学ぶかを決め、
人間として生まれたけども、
魂の成長のための困難を乗り越えることが出来ず…
自死という方法で還っていったのだと考えています。
真実はAさんにしか分かりません。
Aさんの苦しみが
Aさんにとってはどれほど耐え難かったものだったか。
自死を選んで、楽になることができたか…。
Aさんのご冥福をお祈りいたします。