小説家になりたい。そう思い始めたのは一体いつ頃からであろう。子供の頃から絵本が好きで、子供ながらに他の子たちより文字を覚えるのが早かったと記憶している。中でもブレーメンの音楽隊が好きだった。しいたげられた動物たちは音楽で団結し、音楽で悪い人間を追いやって、音楽で楽しく暮らしていく。舞踏会で踊るプリンセスよりも、鶏をのせた猫をのせた犬をのせたロバに魅了された幼少期。その時は確か、将来の夢はケーキ屋さんと答えた気がする。プロフィールに小説家が将来の夢として並び出したのは、恐らく小学二年生からだ。それ以来、ゆっくりと小説を書いては父に見せていた。父は私にとって、文章の師範である。この22年の人生で、一番読み込んできた文章は父が書いたそれだろう。思えば父の反応が嬉しくて、よく書いたなと喜ばれたくて、書いていたのではなかろうか。今ではめっぽう、物語を作る機会はなくなってしまった。完成させた作品は一つだけ。それでも心のどこかに、小説家、いや人生で一度は本を書きたいという夢が残っている。それは何十年後の未来への希望だ。どれだけ辛いこと悲しいこと、恥ずかしいこと嫌なことがあったとしても、この夢を実現するまで生きなくてはならぬ。心が深く、深く沈んでしまった時のセーフティネット、それが小説家という夢なのだ。