【とある病院 個室】

京介「沙良――あ」

京介が病院に足を踏み入れると、妹は検温されているところだった。

看護師「あら、おはようございます」
京介「どうも、お世話になってます」

看護師「沙良ちゃん、よかったね、お兄さんがきたよー 抱かれたい男ナンバー1の方!来週から月10で主演らしいよ~」

少女「……」

京介「沙良、今日もいい天気だぞー」


語り掛けながら、彼はカーテンを開けた。
部屋に陽光が射すけれど、白い顔はまつ毛一本動かすこともない。


京介「この日差しじゃ、多分兄貴が来るのは夕方かな」
京介「来たら、遅い!って怒っていいからな」


誠「……遅れる前から妙な指示を出すんじゃない」

京介「あれ?早い」

看護師「おはようございます」
看護師「沙良ちゃん、またお兄さんがきたよー 青春小説の神様の方!兄妹3人揃うなんて、今日は最高だね」

少女「……」


看護師「――36.1、脈も異常なし、っと」

看護師はテキパキと仕事を済ませ、誠に向き直った。

看護師「そういえば先生、新作も100万部突破したって、今朝ニュースになってましたよ おめでとうございます!」

誠「……ありがとうございます」

大して嬉しくもなさそうにそう応じて、誠はベッドの傍らに立つと、妹を見下ろした。



看護師「それじゃあ、どうぞごゆっくりしてらしてくださいね 沙良ちゃん、きっと嬉しいと思うから」

京介「ありがとうございます、そうします」


看護師を見送った途端、弟は笑顔を消して兄を振り返った。

京介「――兄さん、不愛想すぎ スゲーじゃん、もっと喜べって」

誠「……ただ売れるように書いたものが売れただけだ 面白くもおかしくもない」

京介「うわー、なにその発言」
京介「嫌味……ていうかたった一人の弟の俺にも塩対応だし」
京介「もっと俺に優しくしてくれても良いんだよー?」

誠「……」


誠は肯定も否定もせずに苦笑を返す。
妹に視線を移した京介は、そこに浮かぶ自嘲の色に気づくことはなかった。