「いつから気がついていたんですか」
吉岡先生が私の目を覗きこみながら聞く。もちろん、ひとつだけ質問してもよろしいでしょうか、とのいつも通りの律義な前置きは忘れていない。私が頷くのを待って言葉を発するところも私が大好きな先生のリズムだ。だから、敬意を表してお答えする。
「最初からです」
柔和なお顔に瞬間、驚きの表情が浮かんだ。しかしそれは日頃から先生のお顔をよく観察していなければ見過ごしてしまいそうなほど微細な動きだったので、私は何も気付かないふりをした。
「つまり、事件が発生した直後にはわかっていました」
「もっと早くあなたの話を聞くべきでした。私とは異なる筋道を辿り、同じ結論にたどり着いていたのですね」
建物の外へ出ると、上質なタオルのような風が、頬にやさしく触れた。
振り替えると事務所の灯りが穏やかな光をたたえている。つかの間これまでの日々の中で様々な思いと共に見上げたことを雑然と回想する。
全てが終わったような、これから何かが始まるような、安堵感と胸騒ぎが私を包み込む。