巻かなかった世界 296 | 指先の記憶

指先の記憶

大好きなおふたりと周りの人たちのお名前をお借りして、私の頭の中のお話を綴っています。二次創作にご理解のある方だけ、お読みくださいm(_ _)m

「あ、あの、ここにぼくたちが住めるんですか?」 

 

 

部屋を見せてもらったぼくたちは、戸惑って顔を見合わせ、理事さんに訊いた。 

 

 

建物全体の印象は確かに少し古い。 

 

 

だけど、どうやら最近外壁の塗り替えをしたみたいだし、廊下の壁にひび割れもない。 

 

 

エレベーターはちょっと古くて音が鳴ってたけど、メンテナンスは毎月やってるらしい。 

 

 

それに内装は先日やり替えてくれたところで、まだ床のワックスの匂いが残っている。 

 

 

そして一番驚いたのはその広さだ。 

 

 

「ここって家族向け、ですよね。たぶん家族4人、くらいの。」 

 

 

主寝室とたぶん子ども部屋が2部屋。 

 

 

書斎らしい、壁一面作り付けの本棚がある部屋まである。 

 

 

ダイニングキッチンにリビングルーム、水回りもかなり広い。 

 

 

「ええ、前の住人は4人家族でした。夫婦と男の子と女の子。年明けからアメリカ勤務になって、せっかく行くんだから向こうのクリスマスに間に合うようにって、早めに引っ越したんですよ。」 

 

 

ああ、だから一部屋の壁紙が花柄なのか。 

 

 

「内装は家族が引っ越してきた5年前にやり替えたばかりだったので、汚れを確認できたところだけ張り替えました。あとは念入りに掃除を。」 

 

 

「ありがとうございます。でも、この部屋はぼくたちには広すぎます。それに家具まで。」 

 

 

「家具は処分したいと言ったのを、それならそのままにしてくださいと頼んだだけですよ。誰も損はしていないし、使ってもらえれば家具も喜ぶでしょう。」 

 

 

家具も電化製品もすべて揃っていて、ないのはベッドだけ。 

 

 

「ですが、お家賃が、、」 

 

 

「あー、それはまあ・・・ そうですね、ユノさんがいま払ってらっしゃる家賃とシム先生に支払われる住宅手当を足した額でいかがでしょう。」 

 

 

「えっと、いま払ってるのは、、」 

 

 

それまで黙ってぼくと理事さんとのやり取りを見守っていたユノさんが、あの部屋の家賃を答える。 

 

 

でも、ぼくの住宅手当っていくらもらえるのかまだ聞いてない。 

 

 

「じゃあ、切りよく200万₩いただきます。保証金は結構です。」 

 

 

「そんなんでいいんですか?」 

 

 

ぼくはこの辺りの賃貸マンションの相場なんて知らないけど、ユノさんはたぶん知ってるんだろう。 

 

 

「まあ、一部屋一部屋は広めですけど、4LDKならそんなものですよ。ただし、他の住民の方にはおっしゃらないでくださいね。」 

 

 

理事さんはニコニコと、けれどぼくたちが何を言っても金額は譲ってくれなかった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。