ユノさんの車で、理事さんが紹介してくれたマンションに到着すると、待っていてくれたのは理事さん本人だった。
「理事さん?」
「ああ、シム先生。お待ちしていましたよ。」
玄関前の駐車場に停めた車から急いで降りて、駆け寄った理事さんは上機嫌だった。
「お待たせしてしまって申し訳ありません。」
「いえいえ、約束の時刻にはまだなっていませんよ。」
「理事さん。こちらがぼくのパートナーで、」
遅れて車から降りてきたユノさんを振り向いて紹介しようとしたとき、
「チョン・ユンホ、さん?」
え?
あ、ユノさんは有名人、だった・・・
「は、はい。えっと?」
「私はあなたにお世話になったパク・ミンホの父親ですよ。」
パク・ミンホ?
誰、それ?
「え?ミノのお父さん、なんですか?え~、いや、あーそうですか。息子さん、元気にされてますか?」
ふたりとも両手で握手、っていうより、手を握り合って再会を喜び合っているようだ。
もしかしてぼくの存在を忘れてるんじゃないか?
「あ、チャンミン、ミノっていうのはおれが軍でいたとき同じ軍楽隊にいたヤツなんだ。」
「そうなんですよ、そのときとてもお世話になって。シム先生のパートナーさんがあなただとわかってたら、息子も連れてくるんだったな。私が今日あなたと会ったとわかったら、悔しがりますよきっと。あの子はいまでもよくあなたのことを話しているんです。」
そんなに仲がよかったの?
まさかその子と!?
「あ、すみません。こんなところでお時間を取らせてしまって。お部屋にご案内しますね。」
やっとユノさんの手を離した理事さんが先に歩きだした後ろについて、ユノさんはさっきまで理事さんの手を掴んでいた手でぼくの手を握って歩き出す。
ぼくはモヤモヤを抱えたまま、ユノさんに引っ張られるように少し遅れてついていった。
ユノさんが握っている手のひらの、さっきまで何ともなかった火傷した部分が、鈍く痛みだした気がした。
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