私はこの冬
沖縄マラソンを完走する
また、ユナスケがおかしなことを言い始めた
かれは、高校行くときも
卓球からバスケ部に入部する
沖縄の中部から名護まで歩いて散歩する
2ヶ月で5キロ痩せるなど
数々の世迷言を急に宣言しては
有言実行を行った
だがしかしたかし、今回ばかりは状況が最悪だ
ヒザ神も跪くくらいの
ヒザ悪い芸人のあんたが
フルマラソン無理でしょ
案の定、彼の練習はマラソン練習とは思えない
100m走から始まった
いや、42.195キロあるんですけど
0.195キロにすら及ばないんですけど
しかし、かれは頑張った
200m、300m···
徐々に距離を伸ばし
5キロを超える練習に達した時点で
悲劇は起こった
膝の怪我再発
医者からは無理しないようにと
診断で釘を刺されたが
彼の意思は固かった
サポーターと痛み止め、アイシングを併用し、マラソン大会直前まで練習を敢行した
何故、こうも頑なに沖縄マラソンに拘るのか伺った
理由は、今年40になる俺にとって、30代最後のマラソンになる
39歳の自分にマラソン達成
サンキューと
言ってあげたい
なんて、くだらない理由だ
応援してる自分が馬鹿馬鹿しい
だがしかしたかし、そんな彼だからこそ
応援したくもなる
遂に、その日は訪れた
序盤から膝を引きずりながら走る彼に、
沿道の応援席から
もう無理だ、諦めよう
と促した
彼は首を横に振るだけで
また、走り始めた
足を引きずりながら
1ミリの余裕もない彼だが
不思議と足切りラインギリギリを躱して行く様に
関係者は小さな光を感じ始めた
ゴールできるのではないか
彼はいつも、そうだ
周りが無理だと説得しても
頑なに自分の意志を貫き通す
今までも、絶対に無理だと思った挑戦の1割くらいは奇跡を起こした
今回もその1割が見れるのか?
しかし、無情にもタイムは刻々と迫る
足切りタイムは6時間15分
残り10分残して
残り1.5キロ
絶望的な状況
誰もが諦めたその時
奇跡が起きた
引きずっていた足をつかい
走り始めたのだ
自分をはじめ
家族が一番驚いていた
ヒザ神が急に短距離走並みに
走り出したのだ
夢を見ているのだろうか
勢いそのままに彼はゴールラインに身を委ねた
タイムは2分残して
余裕のゴール
急いで完走した彼を支え休憩できる場所に運んだ
もう、自力で立つことが出来ないくらい消耗した彼が小さく囁いた
あ、あ、ありがとう
わかった、わかった、自分にだろう
サンキューできて良かったな
違うよ、お前にありがとう
お前の支えがあってゴールできた
ほんとにありがとう
ありがとうって伝えたくて
あなたを見つめるけど
繋がれた右手は誰よりも優しくほらこの声を受け止めている
ホントにユナスケにはいつも
驚かされる
なぁ、今度おれ
M1目指すよ
ユナスケ40の挑戦がまた、幕を明けた