俺は先輩にあこがれてボクシング部に入った。
高校の部活見学でスポーツ系の部活をぐるぐると回ってたときに、俺は先輩と出会った。
校舎の離れ、運動部の部室が並ぶその端に、ボクシング部の部室兼活動拠点があった。外装はボロボロ、今にもつぶれてしまいそうで、最初は覗くだけのつもりだった。けど、
スパァァン!!
大きな音がしたほうに視線を向ける。そこには一心不乱にサンドバッグを揺らす学生。
新入部員勧誘に必死な周りの先輩は俺に入部希望者?なんて聴いてくるのに対して、全くこちらに視線を向けない。
俺は周りの先輩に軽く挨拶してから、サンドバッグを揺らす先輩に近づく。
「お前待て!今のあいつに近づくな!」
先輩達が止めるのを無視して俺はその人に近づく。
腕を伸ばせば届きそうな距離。俺はその人に声をかけた。
「あの」
スッパァン!!!
俺の意識はそこで途切れた。
目が覚めたとき、俺の目には見知らぬ天井が写る。
「お、目が覚めたか?」
「あんた。」
「さっきは悪かったな。」
そこにいたのはさっきサンドバッグを揺らしていた先輩。
「俺、いったい・・・。」
「俺のパンチ食らって伸びてたんだよ。」
「え?」
「他のやつら、俺がサンドバッグ殴ってるときは誰も近寄るなっつったのに。」
「えっと・・・。」
「悪い。俺集中してるとき回り見えてなくて、ボクシングの事しか頭にないんだわ。だから、不用意に近づくと敵と認識して殴り飛ばしちまうんだ。」
少しばつが悪そうに頭をかきながらそう言ってくる先輩。
「そ、そうなんスか。」
「そ、だから悪かったな。」
そういって苦笑いする先輩。さっきの真剣な顔と比べるとなんとも締まりの無い顔をしている。
「そういやお前、入部希望者?」
「えっと。」
「まだ決めてないか。ま、気が向いたらまた来いよ。今度はきちんと歓迎してやるからさ。」
ニカッと笑う先輩。なんていうか、コロコロ表情の変わる人だな。最初の印象はそんなもんだった。これが俺と先輩の出会いだった。