私がお香の稽古を始めたのはお茶を始めてから五年後くらいでしたでしょうか…。「花月」とか「七事式」と呼ばれる一種のトレーニングの場で、初めて聞香というものを知りました。

その少し前に、かなり古いNHKの番組で「美の継承者たち」というドキュメンタリーのビデオを見ていて、当時は見ただけでは何だかよくわからずそのまま忘れていたのですが、その時初めて「はぁ!コレだったのか!」と繋がりました。

幸い近所のカルチャーに御家流の講座があったので月に一回の気楽な稽古に通い出し、中断するまでそこに十年ほどお世話になりました。

香道も流派は色々あるのですが、大きいところだと志野流と御家流になるでしょうか。ただし、御家流は各家でちょっとずつ違ったり家元が別にいたりするので緩い連合体のような感じです。

志野流の方は志野宗信を流祖とし、現在は名古屋の蜂谷家がお家元、比較的質素な道具を用いて規律と手続に重きを置くお流儀のようです。武家風と捉えることが多いです。

お家流は、香りを「楽しむ」ことに重点を置くのであまり所作などにこだわりがありません。また、使うお道具は蒔絵など華やかなものが多く、着物も派手目、お社中によっては宝石の指輪や帯留がゴロゴロ、ということも😅

「公家風」と呼ばれますが、美智子皇后の正田のお母さまも御家流だったのですから、好みが華やかでそこが公家風という程度かと思います。

始めについた先生は、御家流のご宗家三条西家の系統の方で、中断のあとは先生を変え、同じ御家流ではありますがより自由な姿勢で作香などにも取り組んでいる会に所属しています。

この会で、五月半ばから六月にかけ、毎年百炷香という競技形式、かつトレーニング的な意味合いの聞香会が開かれます。

午前中から夕方まで、途中お昼休憩を挟んでひたすら百炉のお香を聞き続けるという、なんとも物好きな会です😅

元はと言えば十炷香という、四種類のお香を聞き当てるゲームがありまして、それを連続で10回(途中ランチ休憩はあります)するのです。

三種類の香が三包ずつ、それに「客香」という、一包のみの四種目の香が入り合計十包。これを打ち混ぜて炷きます。

試みという、事前のテイスティングのようなものがついた十炷香もありますが、この場合は無試十炷香です。

例えば、Aが三包、BとCも三包ずつ、Dが一包(たとう紙に包まれてます)の計十包で、一炉目に出たものはどの種類かに関係なく「一」と答えます。

二炉目に出たものが一炉目と違うものなら「二」が答えになりますし、一炉目と同じ香りだと思えば「一」と答えます。

四種十包の香は炷く前によく打ち混ぜられるのですが、混ぜ方が足りず仮にそのまま出てきたならば「一、一、一、二、二、二、三、三、三、ウ」が答えになります。四の代わりに「ウ」と書きます(理由はわからないので今度調べてみます)。

このように出てくることはもちろん滅多にありませんので、例えば一包しかないDが始めに出れば「一」はひとつのみとなり、その後に出た順番で二と三、ウが三つずつ散りばめられた格好になるはずです。

意味わかりますか??

わかりませんよね😅
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これは会に出席してる人でも混乱するので仕方ありません。きょう私のお隣に座った方は初心者というわけではないのですがどこか変なスイッチが入ってしまったらしく、ふと提出前のお答えの紙を見ましたら「一、ウ、三…」などと書かれており、その書き方違うよと指摘したら余計混乱させてしまい大変でした。

といいますのも、便宜上ここではABCで表した「香名」の上に、同じように一、二、三、ウと書いてあるのです。これは単なる順番を表したものなのですが。

さらに言いますと、香名の下には「木所」と呼ばれる、お香の産地や出荷港ごとに種類分けしたもの(有名どころは伽羅でしょうか)の略称として、やはり一、二、三、ウ、花一、花二という記号を当てるのです。
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十炉が15〜20分くらいで回ってくる中、パニクると一、二、三の意味がわからなくなってしまうのですね。

もちろんこういうスピードと直感が必要な組香は大変珍しく、普段の稽古ではゆっくり試みが二、三種類出た後、本香では客香を足したり他のを引いたりして、五、六炉くらい回ってくるのことが多いです。

しかし、この十炷香というのは室町の頃に盛んに行われた○○合わせという競技形式の鑑賞賭博会(と、勝手に命名しました笑)と同じく、かなり古い形のゲームであり、お茶をやってる方なら聞いたことがあるであろう「闘茶」もこの形で行われていたのではないかとのことです。香道の源と言えるかもしれませんね。

そもそもの話になりますが、香木は日本では産出されないため、主にベトナムなどの東南アジアや経由地の中国の港から輸入されていました。今でも輸入するしかなく、ワシントン条約により輸出入が管理されています。

お抹茶も鎌倉期に中国からもたらされたものです。お蕎麦しかり豆腐しかり。今、「日本の伝統○○」と呼ばれてるもののかなり大きな部分が元はと言えば大陸からの輸入品。珍しい舶来物を景品に、公家や武家、一部商家の大金持ちが集っては競い合っていたことでしょう。
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そんなわけで今年の百炷香。私の成績はかなり悪いものでしたが、いろんな条件の関係で全体的に皆さんのお点は低かったようです。

一年後の百炷までの間に、また日々のお稽古をマッタリ楽しむ日々。折々に「普通の」組香のお話もしていきたいと思います。