※この投稿は、当時リアルタイムで書けなかった事を後から振り返って書いた文章になります。
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2020年7月29日 続き
へその緒から下はタオルで包まれていた赤ちゃん。性別を確認すると、助産師さんがハッとしたように赤ちゃんが包まれていたタオルを開く
「あ、男の子だ」
「え!?男の子!?」勝手に女の子だと思っていたので驚いていると、タオルを開いて赤ちゃんを見せてくれた。
小さな小さなおちんちんが付いていて、赤ちゃんは男の子だった。
赤ちゃんはその短い命を終えてしまっているのに
私は、なんて可愛いんだろう。早く夫にも見せたい!という変な高揚感でいっぱいだった。
「あっという間に生まれちゃった・・・」と私がつぶやくと
「お母さんの負担にならないように、頭から、きれいな状態で生まれてきてくれて、孝行息子だね!!優しい子だね!!」と助産師さんは言ってくれた。
夫が到着したらしく、処置が終わるまで食堂で待たされているとのこと。
旦那さんに生まれた時間と生まれた事を伝えましたからね。と診察の助産師さんが教えてくれた。
赤ちゃんが生まれてから10分位経った。
まだ胎盤が出ていない。らしい。
先生がようやく到着して、助産師さんがまだ胎盤が出ていない事を伝えた。
初めて見る知らない白髪の先生だった。
膣から手をグイッと入れられお腹を思いっきり押された。
痛かったけど、胎盤はすぐに出た。なかなか大きなものがどぅるんっと出た感覚。
遠目に見えた胎盤は、両手に収まるくらいの赤黒い塊だった。
知らない白髪の先生は「今回は残念だったけど、また次があるから!」と言い残して分娩室を出て行った。その時は何も思わなかったけれど、後から思い出すと酷い言葉だ。
この赤ちゃんの命は今回しか無いのに、次もクソもあるかよ。産科の医師にしては随分と患者に寄り添っていない言葉である。
残った血の塊の処置を終えると、夫が登場。
分娩台の隣に、普通に生まれた赤ちゃんと同じように寝かせてもらっている小さな小さな赤ちゃんと対面した夫は、何とも言えない複雑な表情をしていた。
「男の子だったんだよ!かわいいでしょ!!」と声をかけると夫は赤ちゃんを見つめたまま微笑んでいた。
そして「俺じゃん」と言った。
対面してすぐに自分でも、自分にそっくりだと思ったらしい。
手がとびきり可愛いこと
かわいいおちんちんが付いていること
さっきまで心臓が動いていたこと
生まれてすぐは温かかったこと
何より2~3回の本陣痛で簡単に出てきてくれて、孝行息子で、優しいところが夫に似ていること、を必死に伝えた。
夫はうんうん、と頷いていた。
きれいにしてもらった赤ちゃんを白いフカフカのタオルでくるんで再び抱っこさせてもらった。
私の腕の重さで壊れてしまいそうなほど小さくて軽い赤ちゃん。そっと手を添えた。軽いけれど命の重さを感じた。
後型付けで助産師さんが分娩室から出て行き、夫と赤ちゃんの3人になった。
また、涙と鼻水があふれ出して、夫が赤ちゃんごとギュッとしてくれた。
家族3人。
赤ちゃんに名前を付けてあげたいと伝えると
夫も名前を考えながら病院に向かっていたらしく
樹木の樹と書いて『たつき』はどうだろう。と言った。
思いがけず良い名前でビックリした。
想像してみた。
樹。
空に向かって真っ直ぐに立つ木。真っ直ぐにお空に帰って行けるように・・・
この10日間、お腹の子を通してたくさん悩んでたくさん考えてひょろひょろの苗木みたいだった私たち夫婦の絆は樹木のように幹が太くなった。
樹。良い名前だ!最高の名前!!
ただ、樹と見ると、私的に真っ先に思い浮かぶ読み方は『いつき』だった。
夫は、『たつき』と言った。
たつき、たっちゃん
いつき、いっちゃん
・・・うん、たつき たっちゃんが良い!
樹で終わる名前、祐樹、夏樹、知樹・・・も、考えたけどやっぱり樹1文字が良いと思った。
たっちゃん、たっちゃん・・・これから一生、何度も何度も呼ぶであろう名前。
呼びやすくて良い。
また戻ってきた助産師さんに、家族3人の写真を撮ってもらった。
助産師さんが、赤ちゃんにお洋服を着せてあげましょう。と言った。
え!お洋服なんて着せてあげられるんですか!?
持ってくるね~と言って助産師さんがまた分娩室を出て行く。
正直、総合病院だしあまり期待していなくて
白装束みたいな感じかな・・・と思っていた。
小さいからあんまり種類無いけど~と言って持ってきてくれたのは
水色とピンクのウサギ模様の小さな前開きのお洋服。あと、白と黄色の帽子。
かわいい!!
それは天使ママのハグ会という、同じように子供を流産、死産した人達で赤ちゃんの洋服を作って寄付してくれている物らしい。
あたたかな気持ちが身に染みる。
私もいつか参加したいと思った。
たっちゃんは男の子だから、水色のお洋服と、黄色の帽子を選んだ。
私は分娩台から動けなかったので、洋服は夫に着せてもらうことにした。
お父さんとしての初仕事!
恐る恐るたっちゃんを抱っこして移動させる夫の姿を、夫のスマホを奪って写真を撮った。
手が可愛いから、洋服を着せる前にたっちゃんの全身写真を撮ってほしいと頼んだ。
助産師さんに指導を受けながら、慎重にたっちゃんに服を着せる夫。
水色のうさちゃんの服に、黄色い帽子を着せてもらった たっちゃん。
可愛くて、思わず分娩台から起き上がって見た。
身体は全然痛くなかったけど、助産師さんから「起き上がって大丈夫なの!?」と驚かれた。
もちろん写真を撮ってもらった。
そしてもう1度抱っこして撮ってもらった。
助産師さんから死産届の説明を受けている夫を横目に分娩台の横に置かれたたっちゃんの頭をなでなでした。
「ゆっくり寝てね」と、身体をトントンして寝かしつける真似をした。
助産師さんが、何かあればナースコールを押してね、と退出し、しばし家族3人の時間となった。
名前のこととか、他愛ない何でも無い話をしたように思う・・・
途中、血がドバドバ出る感覚と
胎盤以来の何か大きな塊が出る感覚があったので、2度ナースコールをしてその度に夫は外に出されて処理してもらった。
結構大きな塊が出たので、そのまま0時過ぎまで寝かされ続けた。
途中、たっちゃんは身体が溶けてしまうから、涼しいところで預かるね・・・と
連れられていってしまった。
生まれたての時よりも、だいぶお肌の色も変わってきてしまっていた。
ようやく肌の色が透明から肌色になり始めた頃の時期。できれば、元に近い状態で送ってあげたい。
ずっと一緒に居たいけれど仕方ない・・・連れられていくたっちゃんが見えなくなるまで見つめた。
夫は、0時過ぎに帰宅。
私は結局1時を過ぎて、準夜勤の助産師さんから夜勤の助産師さんに変わった頃に
歩いて病室に戻った。
羊水と血でびしょ濡れだったベッドはシーツが替えられてきれいになっていた。
ミニ扇風機は付いたまま、腰のあたりに置いていた たるしばの抱き枕とスヌーピーのブランケットは、汚れを免れたらしく綺麗だった。
腰をさすってくれていた助産師さんが咄嗟によけてくれたのだろうか・・・
助産師さんがドアの向こうで待機して見守られる中で、トイレを済ませた。
数時間前まで、トイレを座るだけで激痛だったお腹はすっかり痛くなくなっていた。たっちゃんがお腹にはもう居ない事を実感した。
出産後に助産師さんに付けてもらったドデカいナプキン?パットから、夜用のナプキンに付け替えた。
助産師さん曰く、子宮から胎盤が引きちぎられて、今まで胎盤へと血液を送っていた血管がむき出しになった状態なので、しばらく出血が続くという。
子宮が収縮することによって、出血を止めるので、温めると血流が良くなり止めようとしている出血が止まらなくなるらしい。
でも、胃がキリキリ痛むのでホットパットをもらった。
夫にLINEを送った。
何回か返信が来て、既読が付かなくなった。
きっと寝てしまったんだろう・・・夫もこの10日間、ずっと気を張り詰めた状態で心身共に疲れてるんだろうな・・・
布団に入ってもしばらく寝付けなかった。
もうお腹の痛みは無いのに・・・
たっちゃんが大丈夫か、生まれてきちゃうんじゃ無いか、心配する必要も無いのに。
たっちゃんのお洋服に付いていた、お洋服と同じ生地で作られたくるみボタンをお守り代わりに持ち込んでいた犬のぬいぐるみの首輪に括り付けた。
たっちゃんが生まれたら、たっちゃんと遊ぼうと思っていた犬のぬいぐるみ・・・その願いは叶わなかった。
たっちゃん、今頃冷蔵庫の中で寒くないかな。
ついさっきまで、お母さんの温かいお腹の中に居たのにね。
お母さんのお腹の中も、きっとあんまり居心地良くなかったよね・・・ごめんね、たっちゃん。
あなたはこんなに良い子で、何も悪くないのに。
ちゃんと大きくなるまでお腹の中で育ててあげられなくて。ちゃんと産んであげられなくて、ごめんね。
頭の中でぐるぐるぐる考えて、眠りについた頃には外は明るかった。