※この投稿は、当時リアルタイムで書けなかった事を後から振り返って書いた文章になります。


2020年7月29日  続き


テレビは21時になって番組がかわり、今夜比べてみましたが放送されていた。
 
テーマは『NiziU大好き芸能人』
 
妊娠が分かる少し前、世はコロナ渦で緊急事態宣言が発令、勤務形態は在宅勤務に変わっていて家にいた私は朝の情報番組 スッキリ!を見ていて虹プロジェクトを知った。
 

妊娠が分かった頃には、完全に虹プロジェクトにはまり、つわりの気持ち悪さを虹プロジェクトの動画を見て紛らわした。
 

デビューメンバーが決まった頃、切迫流産の診断を受けて自宅安静となったがベッドで横になりながらNiziUの動画を何度も繰り返し見ていた。
 

お腹の赤ちゃんは、NiziUと共に今まで育ってきたといっても過言では無い。
そしてここに来てのNiziU特集のテレビ番組・・・
 

助産師さんが「困ったねぇ・・・どうすれば楽になるかなぁ・・・」と腰をガシガシさすってくれた。
よく陣痛の時に、腰をさするとか、テニスボールで押すとかって聞くけれど本当なんだなと思うほど、腰をさすられるとフワッと楽になった。
 

その瞬間。
何かがはじける感覚と共に温かい液状のものが一気に流れ出た。
 


破水だ。
 
「あ、何か出ました・・・」
「出た!?あ、破水したねぇ!!」助産師さんがナースコールをしいつもの診察の時の助産師さんと、知らない助産師さんが2人、車椅子を持って病室に入ってきた。
 

この間ずっと繋がったままだったZoom
画面の向こうの夫に
「・・・破水しちゃったよ」と伝える

「分かった!すぐ行くから!」
 

診察の助産師さんが「旦那さんに連絡しますか!?」と言ってくれたけどZoomでずっと繋がっていたことを伝え、旦那さんに来てもらうよう伝えてください!と言われてそのまま夫に伝えた。
 

コロナで立ち会い禁止なのに・・・来ていいんだ・・・

そうか、赤ちゃん最後だもんね・・・と、ぼんやりと思った。
 

画面の向こうで夫は、頑張れ!と言っていて私は通信を切断した。この時はたぶん、920分くらい。
 

この10日間、破水に脅えて過ごしていた。
トイレと一緒にチョロチョロとでちゃっているのではないか、自分でも気がつかないうちに漏れてるのではないか・・・そう脅えて、慎重に行動していたけれど、破水とは、そんなものではなかった。
 

流れ出る液体を自分の力では止められない。
そんな感覚だった。


リトドリン塩酸塩の副作用なのか、赤ちゃんと自分の置かれている状況への動揺なのか、手、脚、身体中の震えが止まらずなかなか起き上がることが出来なかった。
 

「起きれなかったら、ここで出産になるけどいい?」と助産師さんに言われ赤ちゃんは、普通の出産と同じように産んであげたいと思い、気を奮い立たせて車椅子に移った。ベッドも病衣も透明な液体と血でビチョビチョになっていた。
 

分娩室は、病室の2つ隣の場所だった。
広い部屋の右奥に、ピンク色の分娩台。
痛みよりも、手脚が震えて動けない。でも、ここに登らなきゃ。他の子と同じように赤ちゃんを産んであげたい!
 

車椅子から立ち上がるついでに、病衣のズボンとパンツを脱がされて前開きの病衣に着替えさせられた。
 

うまく腕が動かせなくて点滴の管が引っかかったけど、そんな痛みもうどうでも良かった。
 

なんとか分娩台に上がったけど、折り曲げた脚が、膝がブルブル震えて止まらない。
「震えるね、震えるよね。」助産師さんが心配そうに言う。
 

「中の様子を見させてね」と、内診される。
「赤ちゃん、もうすぐそこまで来てるよ」とのこと。
 

赤ちゃん・・・出ちゃう・・・
苦しくないかな?大丈夫かな。大丈夫じゃないよね。ごめんね、ごめんね・・・
 

「旦那さん、到着したら立ち会ってもらう?生まれてからでいい?」と聞かれたので
生まれてからでいいと答えた。夫は痛いの苦手なのにこの血まみれの状態を見せるのは酷だと思った。
 

点滴を付け替えられて、しばらくすると
今までには感じたことのないような大きな痛みがお腹全体を襲った。
 

「痛いーーーーーーーーーー!」
 


診察の助産師さんが、「痛いよね。それ、陣痛です。お母さんとしての役目、あと少し、しっかり果たそうね。赤ちゃん、きれいな分娩台に出せるように準備できたから、次に同じ痛みが来たらいきんでいいからね」
 

もう終わっちゃうんだ・・・と、ずっと堪えていた涙があふれ出た。


「うわぁぁぁぁぁん」
 

「泣いていいんだよ、ずっと頑張ってたもんね。」診察の助産師さんが横について励ましてくれる。

 
泣きじゃくっていると、次の痛みが来た。
痛みに合わせて下腹部から膣のあたりに向かって力を込めた。

 
とぅるんっつ
 

「赤ちゃん出たよー!!」
いとも簡単に、赤ちゃんはお腹から出てきた。産声は・・・もちろんない。

940分 18.5cm137g と聞こえた。
 

「赤ちゃん、とてもきれいに生まれたよ!」と教えてくれた。
 

先生が到着する前に生まれてしまったので、へその緒を切るかどうするか、助産師さんたちでひと揉めしているのをぼんやりと聞きながら、私は放心状態だった。
 
 

診察の助産師さんが、赤ちゃん抱っこする?と聞いてくれたので
二つ返事で頷いた。
 

目の前に、赤ちゃん。夫と私の赤ちゃん。
「手脚がすらっと長くてお母さん似だね」と言ってくれたけど、顔を見た瞬間に夫にそっくりだと思った。小さな鼻と口は、夫そのものだった。
 
「赤ちゃん、まだ鼓動がある。触ってあげて!○○さんの子だよ!忘れないでね!!」
そう言って赤ちゃんを顔に近づけてくれる診察の助産師さん。

 
肌がまだ少し透明で、でもお手々も身体も小さいけれどちゃんと人間で、小さな耳も瞼も、鼻も口も付いていて、まだ肉付きが無くてあばら骨が浮いて見える肋骨はほんのりピンク色に染まり、その奥の心臓は確かにとくとくと動いていた。右手の人差し指でとくとくと動く心臓に軽く触れた。赤ちゃんが生きていた証。

そのまま人差し指で赤ちゃんの左の頬に触れ、その時出せた精一杯の声で


「ごめんね。ありがとう。忘れないからねー!」と赤ちゃんに伝えた。


泣きながら、精一杯出した声、赤ちゃんに聞こえたかな。伝わったかな・・・
 

赤ちゃんは、心臓を動かしたまま生まれてくれたけれど、呼吸が出来ないのでいずれは心臓も止まり亡くなってしまう。

いつ心臓が止まり亡くなったのかは分からないけれど、私が話しかけたとき、触れたときには確かに生きていたと思う。

会いに来てくれてありがとう、そんな気持ちでいっぱいだった。