2017年8月20日6時14分

暑くなりそうな青空が広がる朝

じいちゃんが亡くなった。

96歳。来月の誕生日で97歳になるはずだった。


何年か前に腎臓に癌が見つかって、それ以来何度か泌尿器科に入院したりしたけれど、でも年齢が年齢だからこれ以上進行はしない、と治療はせずにここまできた。

今年4月のばあちゃんの十三回忌で、久しぶりにじいちゃんが自宅に帰ってきて皆で集まった時に、おじちゃんからじいちゃんの腎臓の機能が低下していて今年いっぱい持つかどうか…と言われた。

でも、96歳なのに頭はしっかりしていてご飯も飲み込みにくさはあるもののしっかり食べる。

だからそう聞かされてもじいちゃんは、何だかんだ言いながら100歳まで生きるんじゃないかって思ってた。

じいちゃんの腎臓の動きは日に日に悪くなっていき、とうとうそれまで住んでいた高齢者住宅ではサポートしきれなくなり、9月にばあちゃんが晩年を過ごした介護病院に移ることが決まった矢先だった。

8月15日にじいちゃんの体調が急変し、今まで何度もお世話になった近くの病院に入院。それでも亡くなる前日まではおじちゃんおばちゃん達と会話も出来ていたそう。

8月20日の6時前だった、前日夜中の2時まで引越し準備をしていた私は寝ぼけ眼で母からの電話をとった。

「じいちゃん今日の午前中もつかどうかみたい…」

9時頃に病院に向かうと母は電話で言っていたが、もう二度寝なんか出来る心境では無くなった私はベッドから出て出掛ける仕度を始めた。

するとその10分後、再び母から着信。

「やっぱりじいちゃんもうダメみたい…」

ヤクルトを一気に飲み干して急いで家を出た。


じいちゃん、がんばれ!じいちゃん、がんばれ!!


病院に着き、救急玄関の鍵を開けてもらうと
従姉妹のはーちゃんが居た。

「真っ直ぐ進んで左側が霊安室だよ」


間に合わなかった…


じいちゃんはまだ温かった。

頭も、頬も、肩も、手も。
ほかほかだった。

それから20分して母が到着した頃には、じいちゃんはもう冷たくなっていた。

ついさっきまで温かかったのが嘘のように。



じいちゃんに最期に会ったのは、私の誕生日の4日前、6月10日の土曜日だった。

ずっと前にお願いしていたネット刺繍の小物入れ。1年半かけて、じいちゃんが作ってくれていたのがついに完成したと連絡が入りそれを受取りに…


でも1番の目的は、じいちゃんにUさんを紹介して、直接結婚の報告をすることだった。


じいちゃんは、Uさんの仕事を聞いて、Uさんの事をすごく気に入ったみたいだった。

名前を教えてくれ、とUさんがメモ紙に書いた名前を見て、良い名前だな!と言ってくれた。

帰る折になって、私の事を
「よろしく頼むね。」と最期にUさんに言った。

また来るね、と言った私に
「またね。」と、ベッドに座って手を振ってくれたのが私とじいちゃんの最期だった。


ばあちゃんは、痴呆が進んで意思疎通が出来なくなってしばらくしてから亡くなったから、ばあちゃんじゃなくなってしまった人が亡くなった、という感覚だった。

でも、じいちゃんは私の中では元気なままのじいちゃんで亡くなったから、今でもじいちゃんがこの世には居ないことが信じられない。


小さい頃はばあちゃん子で、ばあちゃんに悪事も本当にやっては行けないことも教えてもらった。ばあちゃんの座卓で2人で色んなものを作ったり書いたりした。ばあちゃんが大好きだった。

じいちゃんは優しいけど、背が大きくて、煙草を吸っていて、子供の私にはちょっと恐い存在だった。

じいちゃんと関係が深まったのは、13年前にばあちゃんが亡くなってじいちゃんがデイサービスに通い始め、革細工や粘土細工、水彩画にネット刺繍をデイサービスでやり始めた頃だった。


社会人になり、事務用品卸の会社に入社した私は、偶然その会社の小売部門に配属され、これまた不思議な因果で今まで全く縁のなかった画材コーナーの担当になった。

じいちゃんは、画材を買いによくお店に来てくれた。年末が近付くと、手帳を買いにも来てくれたから、事務用品コーナーまで付き合って、普通は割引出来ないものを割引いてあげたら喜んでくれた。

90歳を過ぎて1人で地下鉄に乗って、蛍光イエローのジャンパーを着て、リュックを背負い、杖を付いて街中のお店まで来てくれた。

ゆみちゃん来たよ。と。


じいちゃんの作った粘土細工の桜を借りて、任された売場に飾った事もあった。えぇ!?90歳のおじちゃんが作ったの?すごいねすごいね!って皆から言ってもらえて私は鼻が高かった。

じいちゃんとの思い出は、社会人になってからの最近のものが多いから、今でも鮮明だ。


やがて私は店舗から営業部に異動になったけど、じいちゃんも脚が悪くなって街まで出てこれなくなり、お店に画材を買いに行って送ってあげたりもした。

じいちゃんから電話が来て、フクロウを作るのに目玉とキーホルダーの部品が欲しいと頼まれて、送ると思いきや自分で持ってじいちゃんとこに行った時は、じいちゃんビックリしてたなぁ…

ハロウィンに送ってあげたお菓子が入っていた黒猫の入れ物を、皆が可愛いねと言ってくれるんだ、と、ハロウィンが過ぎても飾り続けて居るのを嬉しそうに見せてくれたり。

バレンタインに送ったニョロニョロのチョコを、大切に食べるよと電話をくれたり。

つい最近のことなのに…

じいちゃんが、死んじゃったなんて信じられないよ。

ゆみちゃん。と呼ぶじいちゃんの声が、今もまだ聞こえてきそうなのに。

私の背が大きいのは、間違いなくじいちゃんの血。

96歳なのに、175cmあって。
棺も特注で。
火葬に2時間もかかって。
しまいには、骨壺に骨が納まりきらない。
最期の最期まで記憶に残るじいちゃんだね!と親族みんなで笑って送った。


じいちゃん、じいちゃん。ありがとね。
生まれてくれてありがとう。
お母さんを育ててくれてありがとう。
私を可愛がってくれてありがとう。

じいちゃん、私は温かい家族に囲まれて
大好きな人と出逢えてこれからの生涯を共にする事が出来て、幸せだよ。


じいちゃん、またね。


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