悩み多き者は日常に戻る | ドリームのイマジンブック

ドリームのイマジンブック

ここはイマジンワールドと現実世界を結ぶ、狭間の空間。
そこではドリームが自分やイマジンワールドにいる誰かの想いを伝える「案内人」として活動している。
この本はそんな世界をつなぐ鍵となっている。

 
「あーやだやだ、今日から学校始まるとか憂鬱なんですけどー...」
 
春の長期休暇が終わり、私は学生寮に戻っていた。ベッドで目が覚めて早々、愚痴をこぼしながら重い体を起こす。
 
「ログボとデイリー...とらなきゃ」
 
片手でスマホを持ち、慣れた手つきで配信アプリを開く。気だるそうに手を伸ばし、ヘッドセットの線を手繰り寄せる。
 
「ん...........しょっ、と」
 
右手に持ったプラグをスマホに差し、マイクをオフにする。面倒な作業も、この数ヶ月で慣れてきたようだ。
 
「うわっ、今日はゲーム多すぎ...」
 
(これは流石に容量がヤバくなるな...。てか何だよこのゲーム、6GBも使うとかありえねーわ)
 
「まぁまぁ、そう悪く言わないの。私のスマホが古いだけだから、ね?」
 
 (あーはいはいそうですか分かりましたー)
 
あの人の適当な返事にイラつきながら、配信開始のボタンを押した。身支度をしながらゲームを進めていく。
 
「.........」
 
 (あ、ゆめっち達も仕事頑張ってる。私も頑張ろーっと)
 
 
~~~~~
 
 
[今日の配信時間が15分を超えました]
 
「よし、15分経った!」
 
私は視聴者がいないことを確認し、すかさず配信停止のボタンを押した。いちいち"終わります"と入力するのが面倒だからだ。
 
「さて、次のゲーム...っと」
 
この作業を2,3回繰り返したら、ミッションは完了だ。ちなみに、ミッションの対象になっているゲームは多種多様だが...
 
「...うん、つまんない」
 
このように、一瞬で飽きてしまうことがよくあるのだ。デイリーならまだしも、ウィークリーだとただただ苦行でしかない。だが、そこまでしてやる理由はただ一つ。それは...
 
「よし、ミッション達成...っと」
 
(はぁ...結局はコイン目当てかよ)
 
「ちっ、違う!!ゆめっち達に色んな服着せてあげたいから...!」
 
(...だから?)
 
「だから..........コイン、いっぱい欲しいです」
 
(ん、素直でよろしい)
 
やっぱりあの人の前では誤魔化せないようだ。なんてことを考えてたら、8時になっていることに気が付いた。
 
「急がないとご飯食べられなくなっちゃう!」
 
慌ててドアを開け、階段を駆け下りて食堂へと向かう。
 
「今日のご飯なんだったっけ?...ま、いっか」
 
正直、食べた朝ご飯を毎日覚えるのが面倒だ。それに、日常会話で朝ご飯の話がでないのなら尚更だ。私が朝ご飯を覚えている時は大抵自分のコンディションに影響を及ぼすものばかり。春巻きとかギョーザみたいな脂っこいもの、食べてて喉が痒くなったなんかの魚料理、キムチの炒め物など...だろうか。
 
「ごちそうさまでした」
 
使った割り箸をゴミ箱に捨て、部屋に戻る。そして、支度を済ませて部屋の鍵を閉めた。さぁ、学校へ行こう。
 
 
―――――
 
 
「ゆめ、おはよう」
 
「おはよー」
 
こちらは友達のかずくん。私がある程度気を許して話せる、数少ない友達だ。彼は甘いものが大好きで、よく私にスイーツの話をしてくれる。聞いてるだけでお腹が空いてくるくらい、彼の話は上手い美味いのだ。
 
(こいつ、いつか糖尿病になるんじゃね?)
 
(しっ!思ってても言わないの!)
 
(そういうお前も、甘いもの食べ過ぎて高血圧気味なくせに)
 
(もう...うるさい!!)
 
「ゆめ、どうした?」
 
「へっ...?あっ、ううん!なんでもない!」
 
そう、周囲にはこの会話が聞こえてないのだ。だから、そっちの会話に気を逸らして人の話を聞いてないことがよくある。もしこの会話を筒抜けにしようものなら、異質な目で見られること間違いなしだ。
 
「あ、今日の教室あそこだったっけ?」
 
「うん、エリアCの二階だね」
 
業務連絡のような会話を済ませ、教室に入る。今日も普通の一日が始まった。
 
 
~~~~
 
 
私が通っている学校はいわゆる理工系だ。パソコンはほぼ毎日使うし、工具は自分で買ったものを使っている。おかげさまでタイピングが少し早くなり、握力もこの2年で多少は付いた気がする。ただ、その中で私が最も苦手としているのが...
 
「ゆめ、相変わらず下手だな...」
 
「あれ?おかしいな...みんなと同じようにやったはずなのに」
 
...そう、私が最も苦手としているのは"実習"だ。これまでに一度も無事故で成功した記憶がないくらい、大小何かしらのアクシデントが起きてしまう。今日の授業は電子回路のはんだ付けをするのだが...
 
「銅箔.........剥がれた...」
 
プリント基盤ははんだごてで熱し過ぎると、銅箔が剥がれてはんだが付かなくなる。しかも、一度剥がれた銅箔は再びくっ付けることが出来ない。いわゆる"詰み"状態である。
 
「先生...これ、どうしましょう?」
 
「う~ん、どうしようもないねぇ...」
 
...このように、先生にもさじを投げられる始末である。このままでは実験ができないのは明確だ。
 
「あ...片付けの時間...」
 
(...とりあえず、どうするかは来週決めようか)
 
結局、今日は諦めて道具を片付けることにした。時計は12時半を示している。やっとお昼の時間だ。
 
「..............」
 
(どうした?戻らないのか?)
 
「お腹......空かない...」
 
(あー...また"あれ"が始まったか)
 
私は時々、急激な食欲低下を起こすことがある。おそらくストレスによるものだろうが、なぜそうなるのかは不明である。ただ、この学校に入ってからずっとこれに悩まされているのは事実だ。入学したばかりの頃よりはたいぶマシになったとはいえ、症状が無くなったわけではない。
 
(さっさと俺に代われ、午後の授業もたないぞ)
 
しびれを切らしたあの人が勝手に私と交代してしまった。手当たり次第に食べ物を探しては私の口に無理矢理突っ込んでいく、これが"普通"なのだ。
 
「チッ...相変わらず少ねーな。もう少し多めに買っておけよ、全く...」
 
「ほんはひふへほははいへ、ほひほへひへはいはら」
(そんなに詰め込まないで、飲み込み切れないから)
 
あの人は私の言葉を無視して次々と入れていく。時計の針が1時に重なった時、その手がようやく止まった。
 
「これでひとまず死ぬことはないだろ」
 
喉が詰まりそうなのをなんとか耐え、急いで教室に戻る。自分の席に座り、授業が始まるのを待った。時計の針は15分を指している。さて、授業の続きを始めよう。
 
「じゃあ授業再開するよー」
 
 
~~~~
 
 
「はーい、じゃあ今日の授業はここまでー。お疲れさーん」
 
今日も約8時間に及ぶ授業が終わった。私は急いで寮に帰り、晩ご飯をそそくさと済ませる。そして、ヘッドセットのプラグをスマホに差してマイクをオンにした。タイトルにミスがないかを確認して、"配信開始"のボタンを押した。
 
「皆さんこんばんは、ゆめっちです」
 
こうして、もう一つの配信が始まった。こっちは自分のやりたいことを自分のペースでやるだけだから、休憩し放題だ。
 
「あっ、こんばんは~」
 
この配信には個性的な人達が入り乱れる。例えばドイツの哲学者やジャーニーフライトに...お料理の先生、ストロング、スーパー高校生、アツアツのカップル、身体改造のプロ、8点はぁ?の人、"パァ~"などなど...。一度見たら印象に残る人達ばかりだ。
 
 
[両面ストーブの人だ~]
 
「もう...私はストーブの人じゃありません!」
 
 
[富士山4回登ったことあるー]
 
「え...すごっ」
 
 
[あ、被検体]
 
「今日はどんな改造をしてくれるんだい?」
 
 
[セクシー入浴配信...]
 
「しません!」
 
 
[行くぞおおおお!必殺のぉぉぉぉぉぉ....スライドオオオオアオオオ!!............................8点はぁ?]
 
「あはははっ、ちょっと待って!はははっ!それはズルいって!」
 
 
["パァ~"が入室しました]
 
「あっ、いらっしゃいパァ~!来てくれてありがとパァ~」
 
 
...視聴者の方が強い配信なんてこの世に存在するのだろうか、と思わず口にしてしまうほど濃いのだ。ま、楽しいければそれでいっか。
 
「というわけで、本日の気まぐれ配信はこれにて終了とさせていただきます。最後まで見てくれてありがとうございました!」
 
[おつー]
 
[おつかれ~]
 
「またね~!」
 
 
 約3時間に及ぶ配信が終わりを告げた。もうすぐで12時になる。今日はもう疲れたからもう寝よう。
 
「おやすみ......」