仕事帰りにポストを見ると、こんな封筒が入っていました。

 

 

 
完成保証つけてくれって、工務店さんにお願いしてたんだったニヤニヤ
 
!「重量木骨の家」は、SE構法の、重量鉄骨造に近い考え方で構造計算を行うという特長を表すキャッチフレーズです。
このフレーズを使えるのは、SE構法を手がける工務店さんの中でも、特に認定を受けた会社さんだけだそうです。
「重量木骨の家」は、お施主さんを守るため、全棟に完成保証をつけることを目指しているとも聞いています。
 
完成保証」は、文字通り、たとえ工務店さんが工事途中で倒産しても、その後を別の工務店さんに引き継いでいただき、工事を完遂させられるようにする保険のようなもの。
 
私たちは、工務店さんとの契約の前に、この「完成保証」をつけてくださることが絶対条件、とお願いしていました。
いってみれば「あんたの会社はいつ潰れるかわからないから保険かけておいて」とお願いしているようなものなので、なかなかお願いしにくいことではありますが、そこは譲れぬ一線、と、強くお願いしました。
 
ちょっと逆接的な話になりますが、完成保証をつけられるということは、その工務店さんの経営状態がある程度健全であることの証でもあったりするんですよね。
完成保証は、保険会社が再保険を引き受けており、保険会社の審査を通った工務店さんしか、完成保証をつけられないからです。
 
 
完成保証がついているから全て安心か?というと、残念ながらそうでもありません。
工務店が倒産して、工事の継続が難しくなれば保険金が支払われ、工事を引き継いでくれる工務店さんを探すことができるようになりますが、支払われる保険金は原則として「完成保証の規定の範囲で支払われた過払い分」が主になるからです。
 
!建物工事は、工事が進むごとに材料費や職人さんの作業費が積み上がっていきます。途中段階で出来上がっている部分にかかった費用を集計したものを「出来高」といいます。
出来高は日々細々と積み上がっていきますが、お施主さんがそれに合わせて細々と工事代金を支払うのは現実的ではありません。そこで、契約時、着工時、上棟時、引渡し時、というように、節目節目にまとめて分割払いするよう契約するのが一般的です。
このやり方をすると、着工したときには、出来高がほぼないのに、契約工事金額の3〜4割を支払っていることになります。これが「過払い」(工務店さんから見ると「前受金」を預かっている状態」)です。
工事が進むと出来高が積み上がって徐々に過払いが減っていき、上棟直後や引渡し直前には、払い込み済の工事費を出来高が上回る「工務店さんが材料代や工事費を立て替えている状態」になるタイミングもあります。
 
途中から工事を引き継ぐにあたって発生する手戻り工事分の追加費用も保険でカバーできますが、工務店さんが立て替えている状態になっていたり、完成保証の規定を超えて過払いしていたりする分は保険金ではカバーできません。
その点は注意が必要です。
 
 
私たちが「完成保証」にこだわったのは、実は、過去に工務店の倒産に巻き込まれた経験があるから、です。
 
私たちは売掛金を踏み倒されただけでしたが、債権者集会に参加させていただきました。
そこで出会ったのは・・・
 
数千万円を工務店に払い込んだのに、アスファルトルーフィングもなく野地板が雨ざらしになった状態で現場を放置されているお施主さん
 
契約工期を大幅に超えても未完成で、完成させるために振込を、と言われて振り込んだ直後に倒産されてしまったお施主さん
 
建物はほとんど完成しているのに、正式に引き渡しを受けていないがために、引っ越すことも、ほんの少しの残りの工事をすすめることもできないお施主さん
 
 
などなど。
 
数千万円のローンをしょってしまいながら、完成するあてのない現場を前に途方にくれている施主の皆さんでした。
 
夜逃げした社長の行方を追う算段をつけようとしたり、社長の元妻(倒産は避けられないとわかって離婚したのだろうと思います)と子供が住んでいた世田谷区の高層マンションを差し押さえられないかと弁護士さんに相談に行かれたり、いろいろご努力なさっていました。
が、法律の壁や個人情報保護の壁に阻まれて、債権回収は思うように進まず、いつのまにか尻すぼみに終わってしまいました。
 
職人さんや建材屋さんも債権者として参加されていました(この時は我々も業者さん側の立場で出席)が、材料代や工事費を回収できないという意味では各職方さんも被害者。とても、手弁当で続きの工事をしてあげる、という状態ではありません。
 
結局ほとんどの方が、追加融資を取り付けるなどして完成にこぎつけるか、中途になった現場ごと土地を売り払って区切りをつける(おそらく完済とはいかず、残債は身銭を切って返済することになったのだろうと思いますが)か、とても苦しい判断を迫られたようです。
 
楽しみにしていた新居が、経済的にも精神的にもとんでもない苦痛の原因になるとは、実際に工務店が倒産するまで、みなさん想像だにしていなかったでしょう。
 
 
工務店さん(や、場合によってはハウスメーカーさん)の経営が健全かどうか、事前に、外部から推し量ることはまず無理だと思います。
 
これも建築士夫の実体験なのですが、実は建築士夫が一時期お世話になっていた工務店さんは、いつ倒れてもおかしくない自転車操業状態の工務店さんでした。
 
工務店に限った話ではありませんが、資金繰りさえついてしまえば、たとえ債務超過に陥っていても会社は存続することが可能です。
今進んでいる工事の材料や職人さんへの支払いは、その現場のお客様からいただいた工事費から払うのではなく、これから工事が始まる別のお客様が払った工事費から支払うことができるからです。
末期的な自転車操業に陥っている工務店さんでは、材料や下請けさんへの支払いを手形にして、実際に現金が出て行く期日を先延ばしし、次の次のお客様や、もっと先のお客様からの入金を支払いに当てる、なんていうことが行われていたりします。
こういう工務店さんは、なんらかの事情で仕事が途絶えた途端、資金繰りに窮して倒産しますが、自転車操業が回っているあいだは、はたから見ると健全な経営の工務店さんに見えてしまうのです。
 
建築士夫がいた工務店は、銀行から限界まで運転資金を借りて、もうこれ以上借り入れは増やせない状態。なんとか自転車を漕いでいるといった有様でした。
 
しかしそういう状況でありながら、社長は会社の入口に「新卒社員募集!」という募集広告を掲げていました。お客様がお見えになるとき、必ず目に入る場所です。
新卒の社員を募集している会社が倒産寸前とは、普通の方はまず思わないでしょう。
 
また社長は立派な外車を購入して乗り回していました。なけなしの現金をはたいてまで車を買ったのは、「人生を楽しんでいる人」という自分のキャラ設定を守るためだったのか、ほしいものを我慢できない本当にダメ人間だったのか、真相はわかりません。
 
 
この工務店は、今のところ無事(?)に存続しています。
東京オリンピックや消費税増税にむけて、現在建設業界は活況を極めていますから、自転車操業に陥っているゾンビ工務店も生き残りやすい環境にあると言えるでしょう。
 
問題はオリンピック後。
建設業界のだれもが、この活況の反動が来ると身構えています。来年か再来年か、「いま受注している現場」を動かすための、次の次のお客様の契約が取れなくなったとき、倒産する工務店と、それに巻き込まれる不幸なお施主さんが大量に生まれる恐れがあるのです。
 
いつ、どの工務店やハウスメーカーが倒産するのか、外部から見抜くことは極めてむずかしいと思います。まず不可能と言ってもいいでしょう。
少しでもそういう工務店と契約してしまうリスクを下げるためには、
 
・支払いタイミングが妙に前倒しになっている契約は結ばない
!契約時10%、着工時30%、上棟時(または中間時)30%、完成引渡し時30%が一般的です。中間時の支払いが70%を超えるような支払い条件を提示されたら、はっきり断ったほうがいいと思います。
 
・「今なら大幅に値引きする」と強引に契約を迫られたら気をつける
!これは判断の難しいところで、経営が健全な工務店、ハウスメーカーでも「今日契約してくれたら安くする」というようなクロージングのかけ方をすることはよくあります。ただ、「そんなに値引いてくれるの?」と驚くような好条件が出てきたら、かえってあやしいと警戒したほうがいいと思います。
 
・「完成保証をつけてください」とお願いして嫌な顔をする工務店やハウスメーカーは避ける
!先述したとおり、完成保証を付けられるのは健全な工務店の証でもあります。自信がある工務店なら、まず拒否することはありません。
私が知っている範囲では、工務店の信用力に応じて、同時に何棟分の現場まで完成保証を付けられるか、その枠の数が決まっていました。
善意で「保険料がもったいないですよ」と言ってくれることはあるかもしれませんが、しつこく「完成保証なんて無駄、かけるだけもったいない」と言い続ける工務店さんがあったら、信用力がないため完成保証の枠が少ないか、埋まっているかもしれない、と怪しんだほうがいいと思います。
 
・できれば本当に完成保証をつけてもらう(保険料は施主負担になります)
!究極的には、転ばぬ先の杖として、実際に完成保証をつけてもらうことをおすすめします。保証料は施主負担になりますが、万が一のことがあったときの被害の大きさを思えば、負担する価値はある、と私たちは思います。
 
 
余談ですが。
 
工務店やハウスメーカーが倒産すると、たいてい「計画倒産だ!」と非難する声があがります。
もしかするとそれば正しいのかもしれませんが、一方で、倒産を避けるべく必死で自転車を漕いでいる会社は、倒れる直前まで、会社存続のために必死になって現金を集めようとします。
 
この危機を乗り越えれば、資金繰りは改善するし、いま見えている仕事がうまく決まれば債務超過も圧縮できる。とにかく今月の支払いをなんとかしよう。
 
だから、必死になって契約を取ろうとしますし、少しでも現金をかき集めようと努力をします。
しかし、そうやって頑張っているのに、ほんの小さなきっかけ(たとえば、竣工検査で小さな指摘をうけて引き渡しが伸びてしまい、月末までに完工時金が入ってこなくなった、というような)で、手形が落ちなかったり、銀行に見捨てられたりするのです。
 
中には悪意を持って、計画倒産に近いつぶれ方をする工務店もあるのでしょうが、そうではない会社も多々あります。
債務超過でも生きながらえている工務店さんもあれば、黒字なのに資金繰りに窮して倒産する会社もあります。
契約時点で、その工務店さんが絶対につぶれない工務店さんだ、と判断することはまず不可能です。
 
人生で一番高い買い物だけに、万が一のときの被害は甚大です。
抑えられるリスクは最小限に抑ええるためにも、これから工務店さん、ハウスメーカーさんと契約なさる予定の方は、完成保証をつけることをぜひ考えていただきたいと思います。

 

 

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