2018/3/29     (melma!)

 

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
 

金正恩の特別列車、次は必ずモスクワへ向かう

 

 

金正恩の特別列車、次は必ずモスクワへ向かう
中韓米のバランスをとるため、一方のプーチンも状況の攪乱が大好き

 

 2018年3月24日から27日まで。
 鴨緑江を越えて丹東から瀋陽、そして北京へと長い長い列車の旅。飛行機なら一時間ちょっとの距離も列車だと時間がかかるが、警備の関係からか、それとも「威厳」とかの理由からか。金正恩は、父親をまねて特別列車を仕立てた。

 習近平の思惑は「挨拶に来い。そして説明をしろ」とおそらく強烈なブラフをかけたと思われる。中国を抜きにして南北会談、ひきつづき米朝会談だと? 

 
  第一に南北朝鮮の統一は、中国の歴史認識においては高麗連邦の再現である。随・唐は、さんざん高句麗の軍事力に悩まされた。ましてや北朝鮮の核ミサイルが米国西海岸にとどくということは、全中国を射程に入れたと同義語である。

 
  習近平としては、このことを最初に問いたださなければならない。

 第二に、ながらく朝鮮は朝貢してくる家来という位置づけだった。元寇では、元の先兵として日本侵略の手先だった。その手下の分際で、親分に黙ってアメリカのボスと会うことは許せない。

 第三に朝鮮戦争に援軍を派遣し、朝鮮を守ったという血の友誼を忘れた恩知らず。秀吉のときも援軍を差し向けたではないか。こういう意識が中国にはある。だから徹底して経済制裁に加担したが、肝腎の北部戦区の軍人等は北朝鮮の軍人とツーカーの関係だった。この点は中国のアキレス腱がある。

 第四に朝鮮王朝が内ゲバに明け暮れたために、シナ派、ロシア派、日本派ができて、それが日清戦争の直接原因となって日本統治時代がきたが、この例外をのぞけば、中国が朝鮮半島の覇者であった。にも拘わらず、中国皇帝の許可も得ないで、勝手な振る舞いをなすとは何様のつもりか、というのが深層心理にある中国人の考え方だろう。

 北朝鮮からみれば、ようやくにして開発した核兵器によって、自国の安全は保たれた。中国から居丈高に命令を受けても従わなくても良いというのが、核兵器の意味である。 

 
 中国ともロシアとも等距離、対等な交渉が出来ることは民族の矜持に照らしても快挙であり、せっかく保有した核兵器の廃棄、あるいは開発凍結などという国家の根幹を脅かすような妥協は出来ない。

 習近平と金正恩の首脳会談は、金にいささかの貫禄負けの雰囲気がなかった。

 
  習のまわりを囲んだのは王こ寧、楊潔ち、そして王毅らで、外交ブレーンばかり、旧瀋陽軍区の軍幹部は見かけなかった。

 しかし金正恩にとって、中国からの食料と原油が入手できないとなれば人民の餓死がおこり、また原油枯渇では戦車も動かせないから通常の戦争もできなくなる。切羽詰まった状況に陥ったのが、国連決議による制裁に中国が加わったことだった。

 
  それならば直接、米国と交渉し、時間を稼ぎながらも米国と平和条約を結んで、国交を開けば、制裁解除に持って行けるのではないか、というのが金正恩が計算した博打だろうと推量できる。

 

▲北の思惑、北京の思惑がどこで交差したか?

 一筋縄ではいかないのが北朝鮮のこれまでの遣り方だった。

 
 時間稼ぎで相手を騙すことは造作もない。とくに日本は騙しやすかったが、拉致被害者の問題が日本の政治を硬直化させ、カネも物資も日本から取れなくなった。

 
 ならば南朝鮮から貢がせようと、韓国に第五列を組織化し、保守派を追いやり、左翼政権の文在寅をあやつることが得策と判断した。

 さて北京での中朝会談の「成果」はあったのか。「非核化」の話題がでたと中国側が発表しているが、北朝鮮はそういう中味には言及がない。

 
  それよりも、金正恩がなかなかの役者であったことは注目しておくべきだ。

 おそらく金正恩の次の一手はバランスをとって、周辺国を競わせ、独自のポジションを維持するため、ロシアを利用するだろう。

 ましてや大国の復活を最大の政治課題とするプーチンは、英国のスパイ殺人事件以降、西側各国から150名のスパイ追放という外交の大失策に追い込まれており、なにかポイントを稼ぐことを真剣に模索している段階である。

 プーチンは状況対応に卓越した能力を発揮し、シリアに絶妙なタイミングで介入して主導権をえた。つぎに米国がつきすすめるイランの核武装阻止にも、巧妙に介入し、中東政治をかき荒らしている。

 こういう状況判断をするなら、ロシアと北朝鮮の利害は一致する。したがって金正恩が長い長い特別列車を仕立て直し、次に向かう先はモスクワであろう。

 

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