★幕が下手から上手に静かに引かれると紋付袴姿の幹部が居並んで客席に向かって深々と頭を下げていた。一杯に埋まった客席からは一斉に盛大な拍手が湧き起こった。きのう(10日)は、東京・足立区のシアター1010で開催中の「文楽公演」を拝見に伺った。今公演は豊竹呂太夫の11代目・豊竹若太夫襲名披露が盛大に行われている。歌舞伎では襲名する本人が決意を述べるのが通例だが、文楽では幹部などが襲名者の経歴や人柄を紹介するだけで本人は頭を下げたままだった。早速舞台に目を転じよう。新・若太夫は休憩を挟んだ最初の舞台「和田合戦女舞鶴」の「市若初陣の段」に登場した。この作品は鎌倉幕府3代将軍・源実朝の時代に起こった和田合戦を題材に、北条氏と和田氏の確執と両氏を和解させようと奔走する人々の悲劇が展開する。新・若太夫は横に座った三味線の鶴澤清介の太三味線に合わせて情緒たっぷりに語るのだった。新・若太夫はパンフレットの中で「私の座右の銘は渾身の力を込めて軽くです。これからは、喉でなく体幹で語るイメージで浄瑠璃に取り組んでいきたいと思っています」と新たな決意を述べていた★(随筆家・夢野幸大)