東京・丸の内の帝国劇場で始まった堂本光一主演のミュージカル「エンドレス・ショック」(作、構成・ジャニー喜多川)を5日に拝見した。この日は都心でも雪が降った。開演は午後6時だった。最寄り駅はJR有楽町である。電車のドアが開くと冷たい風が吹き込んできた。思わず身震いがした。急いでダウンジャケットのチャックを首まで引き上げた。だが、身震いは収まらなかった。ここから帝劇までは徒歩で3,4分だ。寒いと自然と急ぎ足になる。普段より少々早く着いた感じだ。既に客の入れ込みが始まっていたが、劇場前は女の子たちであふれていた。おそらく友だちとの待ち合わせだろう。

 今回は上演15周年の記念舞台でもある。チケットは全日程完売というプレミアム公演だ。ロビーに入ると、歩くのも苦労するほどの人、人、人だった。そのすべてが女性だ。見渡しても男の姿は目に入ってこなかった。ロビーには2000年から始まった「-ショック」のでっかいポスターが何枚も天井から下がっていた。女の子たちはスマホやデジカメを向けてシャッターを押しまくっていた。こんなところで、オヤジがフラフラ歩いていると「痴漢」と間違われそうである。すぐに客席に向かった。場内を見渡してみた。やっぱり女性ばかりだった。男は、私を含めメディア関係者だけのようだった。この日は「記者総見日」だった。

 定刻ぴったりに幕が開いた。白い幕がおりてきた。過去14年間の「エンドレス・ショック」の軌跡が映し出された。そして、白い幕が上がるとコウイチ(堂本)が舞台のテッペンにいた。何本もの照明が堂本めがけて飛んでいった。さぁ、始まりだ。ジャニーズ事務所の公演は、ほとんどの作品の配役名が実名である。この舞台もそうだ。したがって、堂本光一の役名は「コウイチ」である。2番手の屋良朝幸は「ヤラ」だ。

 物語の舞台は米・ニューヨーク。コウイチがリーダーを務める小さな音楽カンパニーのメンバーが成長していく姿が描かれる。舞台では、ショーを巡るコウイチとヤラの衝突にほんろうされるカンパニーのオーナー(前田美波里)やメンバーの苦悩なども絡ませながら、華やかなショーを展開していく。コウイチは歌、ダンスはもちろん、客席まで飛んでくるフライングも披露する。

 客席から悲鳴が上がるのが、1幕最後の「階段落ち」だ。コウイチが20段を超す階段のテッペンから勢いよく転がり落ちてくるのだ。2幕では、フライングをしながら天井から下りてきた4本のハシゴに次々に乗り移っていく。サーカスまがいの「曲芸」は危険と隣り合わせだ。私の席は前から10列目だった。ちょうど、1本のハシゴが頭の上に下がってきた。ハラハラしながら見上げていた。

 全編を通してほとんど出ずっぱりで舞台を駆け回った堂本。その演技力は目を見張る。14年の経験はダテではない。歌、踊り、芝居。見る度に進化を遂げていた。屋良の重心のブレないダンスも群を抜いていた。堂本をバックアップしたジャニ-ズ事務所の福田悠太、越岡裕貴、岸優太、野澤祐樹、諸星翔希、岸孝良らも頑張っていた。ヒロイン・リカを演じたラフルアー・宮澤エマがかわいかった。演技もしっかりしていた。もう60歳を超えたオーナー役・前田美波里のハツラツとした体つきは驚きだった。日頃の鍛錬の賜物なんでしょうね。

 フィナーレ。全メンバーをバックに三方に深々と頭を下げた堂本がマイクを握った。「本日は本当にありがとうございました。ファンのみなさまのおかげで15周年を迎えることができました。これからも、ひと公演、ひと公演を全力で走り続けていきます」と声を張り上げた。客席の女性は総立ちで拍手を送っていた。熱気が渦まいていた劇場を出ると、冷気が一段と強くなっていた。汗ばんでいた体が一瞬で冷え、寒気が襲ってきた。インフルエンザも流行っている。速足で有楽町駅に向かった。この公演は3月31日まで。(随筆家・夢野幸大)