　ぼくは左足を前に両膝を軽く曲げ、重心を真ん中に置いた。頭を守るように両拳を顔の正面に構えた。
　師匠も左足を前に右手であごを守り、左拳は真っすぐぼくに向けた。視点はぼやけてぼくの目を見ているわけでもなく、どちらかというとぼくの全身をとらえていた。
　左拳で突きを入れようと一歩踏み込んだ。師匠はひょいと体（たい）をさばき、ぼくが続けざまにくり出した右拳をも受け流した。
　さらに師匠の後頭部を目がけて右の廻し蹴りを放ったところ、師匠はすっと間合いを詰めてきて、ぼくは足ごとすくい投げられてしまった。
　バランスを崩し、床板にどしんと尻もちを着いた。道場のすべての視線がぼくに集まった。
　顔から火が出るほどに恥ずかしかった。

教養部で開催される水無月祭（みなづきさい）で演武するぼく（左）と同期（神戸大学鶴甲 1991年）

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1-1 二十二歳の初春 4

1-1　二十二歳の初春 4