ゆめこシリーズ「空を飛べなかったツバメ」「ほっこりするね」「想い出の走馬燈」の著者のふじもとじゅんこです。
私はブログの広告収入を得ないで投稿しています。
ゆめこの初恋物語
文・ふじもとじゅんこ
《第30話》…(その1)
ゆめこ50才の秋
予期せぬのっぽからの言葉
ゆめことのっぽが再会を果たしてから2年5ヶ月が経っていました。
ある日、のっぽが電話を掛けてきてくれました。
ゆめこは大喜びで電話をとりました。でもその内容は嬉しい知らせではなかったのです。のっぽは医者から2年前に癌の告知を受けたことをゆめこに話しました。のっぽの声が電話口から悲しく聞こえてきました。ゆめこはあまりのショックから思いのまま叫ぶようにしゃべりました。
📱『のっぽちゃん 大丈夫だよ!
お薬飲んでるの?』
📱「あぁ」
『世の中には病気が治った人いっぱいいるんだから大丈夫だよのっぽちゃんも大丈夫だよ 病気なんかに負けちゃダメだよ!』
//////// ///// /////
すると、のっぽの声が途切れ途切れに聞こえてきて、のっぽの声が聴きとれなくなりました。携帯の電波障害が起こったのです。
のっぽは電話口の向こうで「電波がおかしいみたいやから一旦、電話切るよ」と言い、電話は切れました。
のっぽはゆめこと再会を果たした5ヶ月後に医者から癌の告知を受けていたのでした。でも、そのことをゆめこは今日まで知る由もなく、のっぽに「会いたい 会いたい」とメールし続けていたのです。
ゆめこはのっぽが癌になったことが未だに信じられなくて、その後に送ったメールは病気のことには触れないでいました。
そして一晩考えて、のっぽのために自分がしてあげられることを思いつきました。
それはのっぽのために物語を書いてメールで読ませてあげることでした。もちろんその物語は、のっぽとゆめこの恋物語でした。ゆめこは二十歳の頃の記憶を辿ってのっぽとゆめこの恋物語をのっぽのために書き下ろすことにしたのです。そしてその恋物語にピッタリの歌を教えてあげることにしました。
それからのゆめこは、のっぽのために寝る間も惜しんで物語を書き続けました。
のっぽが医者から癌の告知を受けて2年が経った今、のっぽの癌はさらに進行して他の臓器にまで転移していました。そんなのっぽの体は日に日に衰えていったのです。そんな中でも、ゆめことメールを繋いでくれていたのっぽは、ゆめこの心に触れる喜びを感じながら生きていました。消えゆく命の灯火を燃やしながらのっぽは必死に生きていました。
月日は流れ、のっぽが電話を掛けてくれた日から2ヶ月が経ちました。そんなある日、のっぽから予期せぬ悲しいメールが届きました。
✉
[受信]
ゆめに出会えてよかった 嬉しかった
僕のために物語を書いてくれてありがとう
ゆめの書いた物語はよく書けていました ゆめの優しい優しい気持ちがいっぱい伝わってきました
ゆめはずっと そのままでいてください
ゆめの傍にいられない僕は遠く離れても ゆめができることを見つけて頑張れるように ずっとずっと見守ってあげるから
たまには写メして欲しかった さようなら‥
ゆめこはそのメールを読んで泣き崩れました。ゆめこは大粒の涙を零しながらメールをのっぽに送りました。
「さようならなんかしないよ!
さようならなんかしないもん!物語はこれからずっとずっと続いていくんだよ だからさよならなんかしないもん!」ゆめこはそう言いながらメールを必死で打っていました。涙で文字が読めないほどにゆめこは泣きじゃくりながらメールを打ち続けました。そのメールは、のっぽへの思いがいっぱいいっぱい詰まった長いメールでした。
ゆめこはのっぽが自分の横顔の写メを再会した直後から大事に持っていてくれたことをこの時、初めて知り、それならばと、また新たに撮った自分の写メを慌てて送りました。
でもその翌日から、のっぽとメールが繋がらなくなりました。電話も繋がらなくなりました。
ゆめこは咄嗟に、財布の中のありったけの十円硬貨と百円硬貨を握りしめて公衆電話のあるところまで一目散に走りました。そして、のっぽの携帯に電話を掛けました。すると、呼び出し音1回でのっぽが電話に出ました。のっぽはゆめこが公衆電話から電話を掛けてくるのを今か今かと待ち侘びていたのです。まさしく二人は以心伝心でした。
📱「はぃ」
📞『のっぽちゃん 私ね のっぽちゃんに我儘ばかり言ってた 会いたい 会いたい って我儘ばかり言ってた のっぽちゃんごめんね
のっぽちゃんに優しくしてもらって乗り越えられたこといっぱいあったよ
のっぽちゃんが私を助けてくれたんだよ
のっぽちゃん病気なのに私は自分のことばっかり言って我儘だった ごめんなさい のっぽちゃん体だいじょうぶ?』
「あぁ」
『のっぽちゃんの声が聞けてうれしいよ
のっぽちゃんも病気と闘って頑張ってるから私も頑張る
のっぽちゃんがまた携帯繋いでくれるのを待ってる のっぽちゃんが元気になって携帯をまた繋いでくれるのを待ってるからね のっぽちゃん病気になんかに負けちゃダメだよ』
「あぁ」
『もう十円玉なくなっちゃったよ
電話が切れちゃうよー
のっぽちゃん大好きだよ のっぽちゃん大好き…』
《プウープウープウー プツン…》
(その2)へつづく