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ゆめこシリーズ「空を飛べなかったツバメ」「ほっこりするね」「想い出の走馬燈」の著者のふじもとじゅんこです。

私はブログの広告収入を得ないで投稿しています。

 

ゆめこの初恋物語

文・ふじもとじゅんこ 

 

 

《第25話》…(その1)

 

再会から三ヶ月後の出会い 

 

再会から三ヶ月経った夏日のような9月のある日、のっぽがゆめこに電話を掛けてきてくれました。そしてその日、のっぽとゆめこは車でドライブに出掛けました。二人は何でもない話をしながらドライブを楽しんでいました。

 

20分ほど車を走らせた頃…

 

「ここ どこを走ってるか 分かる?」

『うん 分かるよ 篠山の町に向かって走ってるんでしょ』

「あぁ」

 

「蕎麦 食べに行こか」

『うん』

 

「コブクロの朝顔の曲を聴いて僕を思い出したんやろ?」

『うん そうだよ のっぽちゃん ちゃんとメール読んでくれてるんだね ありがと

朝顔のCD持ってきたよ』

「貸してん」

『はい』

 

♬♪♬♬♫♪~

二人は朝顔の曲を聴きました。

 

『のっぽちゃんと電車に乗って京都でデートした時、帰りの電車で、あびこ行きに乗る私と千里中央行きに乗るのっぽちゃんだったよね

それでその二つの電車がホームに向かい合わせで停車していて、同時発車するんだよ その時、電車のドアの窓からのっぽちゃんが私に手を振ってくれるシーンをはっきり覚えてるよ この朝顔の曲の歌詞に電車が出てくるから思い出したんだよ』

「………」

 

それから15分経った頃…

 

のっぽはお蕎麦屋さんまで歩くのに5分くらいかかる駐車場に車を止めました。

 

「ここからちょっと歩くから」

『うん』

 

ゆめこはミントグリーンのかわいいフリルの日傘を持って車を降りました。そして、のっぽが車をロックしました。でもゆめこは持って降りた日傘はやっぱり車に置いておきたくなって車のドアの前でモジモジしていました。そんなゆめこの様子に気付いたのっぽは

「暑いのん?…」と言いながら車のロックを解除して助手席のドアを開けてくれました。ゆめこは『だいじょうぶ』と言いながら車の中に日傘を置きました。そして二人はお蕎麦屋さんに向かって歩き出しました。

のっぽの少し斜め後ろを控えめに歩くゆめこを気遣うように、のっぽは何度も何度も振り返りながらゆめこの歩幅に合わせて歩いてくれました。

そして二人は人通りの少ない路地裏のような建物の間を通り抜けて篠山商店街に出ました。のっぽの後をくっついて歩くゆめこは商店街の昔ながらのブリキのおもちゃが並ぶお店にふと目がいき、よそ見をしていました。そのゆめこの様子を知ってか知らずか、のっぽは突然立ち止まりました。その拍子にゆめこはのっぽと軽くぶつかりました。

のっぽは、ゆめこの顔を見てニッコリ微笑むと歩く方向を変え、道路を横切って斜め向かい側にある「ひいらぎや」というお蕎麦屋さんに向かいました。そして二人は「ひいらぎや」の白いのれんをくぐって店に入りました。

店に入ると昔ながらの趣のあるテーブルと椅子が並んでいて、のっぽがテーブルを決め、座りたい椅子にゆめこを座らせてくれました。そして、のっぽはゆめこの向かい側の席に座りました。

 

ゆめこはメニューを見て冷たいお蕎麦を選びました。のっぽもゆめこに合わせて同じものを注文しました。

 

そしてお蕎麦がテーブルに運ばれてきました。

そのお蕎麦は皿蕎麦で、五つの小皿にそばが盛られていました。

ゆめこはのっぽと一緒に居ることだけで胸がいっぱいで、その嬉しさのあまり二皿のお蕎麦しか食べられませんでした。のっぽは「食べられへんの?」と聞いたあと、ゆめこの三つの小皿のお蕎麦を食べてくれました。

そして食後に蕎麦かりんとうが一つのお皿に盛られてテーブルに運ばれてきました。ゆめこはその蕎麦かりんとうを食べたことがなかったので、食べてみたいゆめこは嬉しい顔をしました。お蕎麦を全部食べられないゆめこでしたが蕎麦かりんとうは食べました。のっぽと同じお皿に手を伸ばして食べることが、まるでのっぽと家でくつろいでいるかのように思えて、ゆめこはとても幸せでした。

 

『蕎麦かりんとう おいしいね』

「あぁ」

 

二人が全てのものを食べ終わって…

 

のっぽとゆめこは再会の日のようにまた10秒間くらい見つめ合っていました。そしてのっぽがゆめこに話し掛けました。

 

「僕は蕎麦は熱い蕎麦がいいねん 夏でも熱い蕎麦がいいねん」

『ふ~ん そうなんや じゃぁ 今度は熱いお蕎麦食べようね』

ゆめこはニッコリして答えました。

 

過去の記憶を一部失っていたゆめこは、のっぽから26年前にも同じ言葉を聞かされていたことを覚えてはいませんでした。

でも、ゆめこはのっぽの少年のようなその言葉で、のっぽの別の顔が見られたような気持ちになり、なぜか嬉しかったのです。

それでゆめこも心の内をポツリポツリと話し始めました。しかし、次第にゆめこの表情は固くなっていき、ゆめこは思いつめたように喋り出しました。その様子に気付いた優しいのっぽは真剣にゆめこの話を聞いてくれました。

 

(その2)へつづく