②本の装丁
さあ今日は「ねむの木」の装丁から夢二の意図を想像し、いろいろな謎解きをして見ましょう。
ハートのマークを除いた表紙、この少女の眼差しが心、つまり少女のハートがこの本の中にいっぱい詰まっていますよ、と言いたかったのでしょうか。本を開いてみてください、と語りかけているようでもあります。表紙を開け次のページには、なんとハートが3つも描かれているではありませんか。(図1)そしてその下に「ねむの木」と題名が・・・。あとは余白です。「早くページをめくってみてください」と。
次にページを1枚1枚めくると読者の心をときめかす絵が次々と現れます。まず題名が今度はローマ字で書かれたページ。少女は帽子をかぶってうつむきかげんにあどけなく描かれています。(図2)その背景も心にしみます。
次が春。和服姿の少女をデザイン化された草花で飾り、やはり五角形で囲まれた背景には、遠く五重塔が描かれ、そこに5羽の小鳥たちが飛び交います。それを見ていろいろなことが空想され、思わず、なんと夢があるんだろう、と声を漏らしてしまいます。(図3)
次が夏です。囲みはつりがね草の花で美しく飾り、少女が大柄の椿模様の布団をかけて、すやすやと気持ちよさそうに眠っています。夢見る少女。「寝たら丹波、起きたら京へ、お目が覚めたらお江戸まで」そんな言葉がローマ字で添えられ、さらに絵の世界へ、夢二の世界へと読者を誘い込みます。(図4)
次が秋です、黄色く紅葉した木がフレームとなって、散った木の葉が敷き詰められた丘にショールをかけた少女が、編み物をしながら座っています。誰のために編んでいるのでしょう。この少女の思いが、手の形と横顔の対比でさわやかに伝わってきます。「はや寒なるに」秋です。(図5)
最後に冬です。空に大きなお月様が。その前にボーイフレンドが初めて登場。草花がフレームのなんとロマンチックな図柄なのでしょう。この装丁の本を手に取った読者(おそらく少女)は、きっと自分の憧れと重ね合わせ夢みる世界に誘われていったことでしょう。なんとすごい装丁なんでしょう。(図6)そしてページをめくると夢二の詩が綴られていくのです。ところで今まで書いたことは私の空想であり、全くの想像なのですから夢二の思いがそうだったかどうかは分かりません。皆様もこの装丁を見て、皆様なりの想像の世界を楽しんでください。
明日はこのあとにどんな詩が書かれているのかご紹介し、あわせて表紙と裏表紙のベルについて、表紙のベルはぶらさがり、裏表紙のベルは斜めに描かれているのはなぜなんだろう?そんなことについて私なりに想像してみたいと思います。皆様もご一緒にいかがですか。
館長 木暮 享