今日は「黒船屋」を配色の面から見てみたいと思います。
昔から日本の習慣として、おめでたい時は「赤と白」を用います。不祝儀には、「黒と白」の幕を使います。そのような視点から「黒船屋」を見ると、この作品は、さらなる「物語」を私達に伝えてくるように思うのです。
「黒船屋」が訴えていること…、それは、夢二と彦乃との過去のなつかしい夢のような生活を「赤と白」で表現し、引き裂かれた現在の悲しみと将来に向っての不安な予感を「黒と白」で表現している、そんな風に思えてならないのです。
具体的に作品を見てみると、女性の髪の毛の「黒」、額の「白」、眉毛の「黒」、まぶたの「白」、眼の「黒」、頬の「白」、猫の頭の部分の「黒」、女性の手の「白」、猫のお尻の部分の「黒」、女性の手の「白」、猫のしっぽの「黒」、女性の足の「白」、下駄の「黒」と、この作品を上からじっと見てみると、「黒・白・黒・白」と繰り返し2色の色が続いていることに気付きます。これは、未来に対する1つの暗い暗示のような気がするのですが、現実にその翌年、彦乃との死別が待っていました。
また夢二は、黄色と赤とグリーンの3原色を見事に使い分けた絵描きでもあります。この作品でもお分かりのように、櫛・笄(こうがい)・簪(かんざし)・着物の色が黄色で、箱を大きな赤の部分とし、帯に緑を配することによってこの絵の全体を心地よく整えています。
「黒船屋」は、一見すると、単に夢二特有の繊細な女性が描かれた作品のように見えますが、「黒と白」、「赤と白」など、見るものをはっとさせる印象的な配色が大胆に施こされ、夢二の人に伝えたい強い思いが描かれた特別な作品となっているのです。
そして「黒船屋」の一番の見所は、自分の腕の中で無心に甘える黒猫に対して、女性のまなざしが、その猫からそらされていること…。
ここに夢二の思い・せつなさがあり、この絵の主題と夢二の作品に対する卓越した構想力(物語性)が発揮されているのです。
こうした点から「黒船屋」を鑑賞すると、この作品は夢二の優れた能力が存分に花開いた作品であり、「黒船屋」が夢二の代表作と言われる所以はそこにあると思えるのです。
館長 木暮 享