『トリとロキタ』を見た。

ダルデンヌ兄弟の作風、姿勢がこれでもかと濃縮された90分だったように思う。

手持ちのカメラ、役者ではない人の起用、劇伴を使用しないといった特徴的なその映画作りが極まっていた。偽姉弟の二人とが偽造ビザを手に入れるために右往左往する。段々と危険なやりとりに染まっていく。その段々は淡々と日常の地続きにあり、まだ未熟な彼らにはその危険性をどこまで自覚的に出来ているのかが判然とつかない。とにかくビザを手に入れた先に見える希望のために(それもまた危険と隣り合わせだろう)、カメラのフレームを飛び越えていこうと、飛躍するその身体に驚かされる。またその身体をしっかりとカメラに収めようとする手持ちカメラの躍動感も見逃せない(ステディカムは使っていないらしい)


トリとロキタを演じた二人が素晴らしい。演技というよりも生身の人間がそこにいる。ドキュメンタリーと言ってしばえば簡単だが、脚色がされていないような、そこには生きることに無垢なトリとロキタがいた。


映画の中で理不尽さと戦う二人。何故救われないのか、救えないのか。そんなことを思いながら、これがまた氷山の一角に過ぎないのかなという想像をするとまたがっくし来る。


大麻工場、裏稼業に手を染めるシェフの厨房、どのロケーションをとってもそんな空間の一つ一つがまたどこにでもある日常と隣り合わせのようにも見える。特別なセットではないリアリティが切迫する。


ダルデンヌ兄弟の創る映画作りに、心底共鳴する。

抗えない理不尽さに対して、それを撮ることで闘おうとしているように思えるから。


2023年の忘れられない作品になった。