あらすじ
2006年、アルゼンチンで起きた史上空前の銀行強盗事件。犯人たちはなぜ、そしてどうやってこの前代未聞の犯罪を実行したのか。事件の当事者たちが当時の様子を振り返り、計画の一部始終を語る。

めちゃくちゃ面白かった。
アルゼンチンのドキュメンタリーと言えばやっぱり『マラドーナ』ですが、それを超えるのではないかという熱量といかがわしさと、怪しさと。

出てくるキャストたちは強盗事件の犯人たち。時に誇らしげに、時にしみじみと語っている。
彼らが出演しているということは刑期を終えたから出演が出来ているのだろうということは想像ができる。

強盗の様子を再現ビデオのようなテイストで当事者たちによって作れていくのだが、どれも非常に映画としてのショットが完成されており、見応えがある。再現としてのセットも緻密に作られていることもあって、臨場感がある。

時に模型のような銀行の見取り図が出てきて、その強盗の経路や空間が非常によくわかりやすく説明される。これ多分CGなのだけど、模型のように作られていることが非常にミソだと思う。手作りの質感と、温かさが妙な親近感を覚える。

当事者が語るエピソードは強度が強い。
たまたま安く買った無線機が狙撃手の無線を拾って、狙撃されずに済んだりなど。
ゴムボートのエンジンが動かなかったり。

そしてどの当事者たちもそこまで悪人ズラではない。どこか市井の人々の顔であり、家庭人のような顔つきさえ見せる。段々とこの作品と、この強盗が"悪"というものを描いているのではないことがわかる。

強盗犯のうちの一人が言う。「これはボクシングの世界タイトルマッチに挑むようなものだった」と。

終幕も、とてつもない"青春感"が漂う。

彼らをヒールとも取れるし、ヒーローとしても取れるような絶妙な塩梅だ。

見ている側にその倫理観を問うている。ただの強盗事件ではないのだと。

銀行が搾取しているサムシングを指摘しつつ、当事者たちは今の生活を生きている。
主役級の男はなんと柔術の講師で、エビをしたり、三角絞めの方法を教えたりしている。ある種の仙人のような生き方である。

もはや強盗というエピソードは青春のような切り取りに見えてくる
当人たちが再現をしている。当人たちが詳細を語る。その再現性の強度が凄まじい。これ自体はイーストウッドが試みようとしていたことに近いかもしれないが、こちらの作品の方がドラマとドキュメントパートの塩梅が良くて、すごく見やすい。
そして強盗をしたことで、今があるとでも言いたそうに、どの登場人物たちもイイ顔をしている。

異様なまでの濃淡があるドキュメンタリー。

当事者たちの語りも、作り込んだ再現映像も、ナルシズムさえ感じる当事者たちのイメージ映像も
この作品の"作り"の部分から、当人の感情まで、最高に一筋縄ではいかない感じがしてイイ。

大傑作と感じた。