70年代を意識したホラー作品。

脅かしやハッタリで驚かせるというよりも、じわじわと不穏な感じが見事な画面設計で嫌な予感として感じられてくる感じ。前半の溜めが一気に後半にやってきます。



作品の冒頭に保安官が登場し、惨劇が繰り広げられたであろう殺害現場を見て、何故こうなったかが明かされていくのシンプルで見やすい構成です。


私はこの作品を見て否が応でも「老い」というものを考えさせられました。人は老いるし、枯れていく。


ポルノ映画を撮ろうとする一行が山奥のコテージに泊まりに来る。そこのコテージを管理している老夫婦が殺人夫婦だったというあらすじ。


調子に乗っている奴らが死ぬというありがちな分かりやすいテンプレートでありながら、この老夫婦という設定は斬新かつハッとさせられます。


老夫婦のビジュアルは100歳を超えているかのようにシワだらけのビジュアル。ポルノ映画を撮ろうとする一行とその若さとロマンスに、おばあちゃんも私もかつてそうだったのにと想いを馳せます。それだけ見ればシンプルな感情の流れに見れますが、これは猟奇的な雰囲気と老夫婦というビジュアルが一種のモンスター的存在としても見えかねないというビジュアルになっていることがミソです。怪物として特に特殊能力があるわけでもなく、ただ老いているという一点において特殊性が醸し出されている。腰が痛いから性行為は出来ないとお爺さんは言ったり、それでもポルノ映画一行を観るお婆さんは彼らの姿に想いを馳せずにはいられない。老夫婦がキスをしたり、あんなことをしたりするシーンは一つのハイライトです。それをグロテスクととるか、ロマンスととるかも観てる側に委ねられるような感覚。


この映画の中にも宗教や信仰といったテーマも見え隠れしますが、やはりこの「老い」という要素の喚起力の強さには驚かされました。


やがて人間は老いて、枯れる。肉体はある種のホラー性も帯びていく。そこにはしゃぐ刹那的な若者をどんな視点で見ているのか。身につまされる感覚がありました。


ここは年増の女性を撮ろうとする一連のアダルトビデオ論にも繋がる部分です。


徹底して70年代のホラーにオマージュを捧げていくような画面設計はさすがA24作品だと感じました。


今の時代、もうどうやったって高画質に撮れてしまう時代だからこそ、どの画面設計を選択していくかというのが映画の作りの設定として必要な感じがしてきます。そこであの頃のホラー映画にフォーカスを合わせるというのはアリだなと思いますし、それだけで前のめりな選択のように思えます。


スピンオフ作品も作られているそうなので、そちらも観たいところです