『GUNDA/グンダ』


農場の豚を主人公にしたドキュメンタリー。人間は一切映されず、ナレーション、音楽も一切ない。だからと言って従来のよくある動物モノのドキュメンタリーとは違う。きちんと狙いがあってその様子を観察して撮影しているのがよくわかる。

おそらく望遠で撮れる高解像度で撮影しているであろうカメラによって、動物たちが写真のような綺麗な映像で捉えることが出来る。モノクロの画面がより神々しさを増している。豚小屋の中からの撮影はもっとミニマムなカメラでしょうが、凄い。

主人公はグンダと名付けれているであろう母豚だ。沢山ある乳房に、子豚たちがおっぱいを吸っている。生まれたばかりであろうカラダが濡れている子豚も彼らに続いていく。神秘的だが、我々人間もまたそうであったようにも思える。母親のおっぱいから栄養をもらうという根源的に愛おしくも、厳しい映像が。言葉を喋らない豚が人間に見えてくる。

劇中、子豚が大きくなっていく。乳房に群がる子豚たちがデカい。母豚は身を差し出す。凄まじい勢いで吸われていく。母豚はなすがままという感じだ。子豚たちが大きくなっていることを喜んでいるのか、その勢いに呑まれているのか判然がつかない。動物的にこれがどういう状態なのかはわからない。ただ母乳を与えるという行為を私たちは見て考えている。

劇中、蚊や小蝿が牛たちの顔にずーっと群がっている。痒そうにしたり、振り払ったりしてもずーっと蚊や小蝿がくっついている。もうそういうものなのか、当たり前のように蚊や小蝿がいる。実際に痒いのか、痒くないのか、それはわからない。しかしもうそこに当たり前のように共同生活をしている。

最終シーン、人間たちの存在が示唆される。ある乗り物が登場する。豚の泣き声が聞こえる。やがて長回しで母豚の姿が映し出される。喋らない、その豚の声は僕らの想像でしかないが、とても寂しそうに見える。突然の別れだ。

我々は普段からここに登場する動物たちの肉を食べたりして生きている。劇中で描かれていることも、描かれていないことも常に密接に繋がりがある。

ここに出ている動物たちを可愛いらしいと思ったりすることもあれば、厳しい一面を垣間見ることもある。
滑らかなカメラワークとフレミングによって、こちらの感受性が揺さぶれられてくる。

この作品、ドキュメンタリーとしては異例の7時間しか撮影フッテージがないとか。
それでこの質量と熱量。狙いがあるからミニマムな作品ではあるがボリューミーだ。

見てからの想像が働く。子豚の可愛さと、また大きくなった豚のエネルギーと、疲れた母豚の肉体はどれも人間とさして変わらないように思えた。だからこそフレームの外にいる人間が浮かび上がる。