あらすじ


「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンドが主演を務め、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー。ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、「ザ・ライダー」で高く評価された新鋭クロエ・ジャオ監督がメガホンをとった。ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で、長年住み慣れた家を失ってしまう。キャンピングカーに全てを詰め込んだ彼女は、現代のノマド(遊牧民)として、過酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることに。毎日を懸命に乗り越えながら、行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ね、誇りを持って自由を生きる彼女の旅は続いていく。第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞するなど高い評価を獲得して賞レースを席巻。第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した。




映画としての強いアクのようなものはそこまで感じませんでしたが、人間の死生観や、「こうやって生きるのもアリだよ」という壮大なプレゼンを受けたような感じもありました。


各ショットが非常に強さのあるビジュアルで。特にノマドの人たちのキャンピングカーが沢山駐車されている中で歩いていくショットはその広々とした大地、荒野の自然と共存しようとする人間の生活が一体となり圧巻でした。それこそドキュメンタリーのような。


キャンピングカーの中の様子はとても暗く、決してその生活が水準のよいものではないということを非常に正直に映し出しているように思えました。特に急に腹を下して、排斥をするシーンは観ていて大変そうでした。私も同様によく腹を下しますが、洋式便所とウォシュレットがあるという安堵感があることで、平然としていられます。しかし車中生活では紙を探すのも一苦労で、排斥一つでもこの生活が出来る人と、出来ない人を二分させてしまうような、一つの踏み絵としての要素として十分に機能していると思えました。私も一瞬この生活もいいなと思えましたが、トイレがないという生活を続けられるかは自信がありません。事務所に1週間寝泊まりしたときも、トイレはありましたし。そういう意味では自分だったらどうだろう?と考えさせられます。そういう喚起性みたいなものがめちゃくちゃあると思いました。


主人公は放浪しながらも、常に何らかの仕事をしています。仕事をすることで、他者とする些細なコミニュケーションが非常に映画的で、そして人生で大事なものだと感じさせてくれます。主人公は仕事をしないと落ち着かない、家がなくても仕事はしていたいという性分です。仕事をすることで、亡き夫への寂しさを忘れることも出来ているのかもしれません。私は仕事をすることの重要性を非常に感じました。仕事をすることで、精神の均衡が保たれることもある。他者とのコミニュケーションも持つことが出来る。逆の機能として働いてしまうこともあるとは思いますが、健全さを保つ上で、労働をするということの大事さを示しているように思えました。


Amazonの大きな工場で働くシーンは、Amazonそのものがこの数年間で最も躍進した企業の一つだということを如実に物語っています。老婦でもバーコードを読み取り、段ボールに詰め、緩衝材を入れて、ベルトコンベアに乗せる。きちんとマニュアル化されて、かつ従業員が一定の充足感を抱いているように思えました。しかし、映画はこれらリーマンショック後の世界と、amazonのような企業の躍進による世界であるために、それが一概に是として捉えきれないものでもあると感じました。ただ、こうして多くの老人たちがAmazonの倉庫で働いているということは覚えておいて良さそうです。


物々交換をするシーンも、人間が貨幣による売買を進めてきたことへのアンチテーゼとして強く機能しています。石を綺麗だと感じたり、ちょっとした椅子でも快適で嬉しいと感じられる気持ちはより強くなっている。強い喜びを感じました。また、同時に物への愛着も描かれており、思わずロングライフデザインということについて考えたくなります。


映画は人間はやがて老いていくことを強く示唆していると感じました。その時にこうした圧倒的な荒野や、広い大地と対峙される人間が映し出されます。消せない思い出と生き、現実と生き、痛みと生きる中で、ノマドとして生きようとする人たちの映画的に生きるアクションはとても心に残りました。