薬物売人


田代まさしにシャブを売ったとされる倉垣さんの本。

シャブとの出会い、マーシーに売ったことで有名になったこと、獄中での生活、太田監督の映画出演、そして今などが記されていた。


これを読んで感じるのは、全編で漂う人情のようなものだ。倉垣さん自身がとても人間味の強い方なのだろうが、克明にその時の感情や出来事が記されている。そしてシャブを通じた人間の出会い、獄中での生活も人情が溢れ出ているように感じた。つまりとても魅力的だった。一つ一つの出来事が克明に記されているということはそれだけ記憶に体感として強く焼き付かれている出来事なのだと感じた。


獄中のことも、警察に追われているのではないかと思う生活も、シャブでのやりとりも、全てヒリヒリする。社会から溢れかけるそのヒリヒリと薬物の快楽と地獄の隣り合わせ具合がまた読み物として、抜群に面白さを担保しているように思う。だからこそ怖く、恐ろしいと感じさせてくれる。


劇中で出てくる太田監督の映画『解放区』を僕も見にいった。そして太田監督とは2010年に共にイメージフォーラムフェスティバルで作品を出品したことがある者同士でもあったりして。ドヤ街を舞台にする、またドキュメンタリーの要素を強め、ギリギリのラインを狙う演出にはどこか共感も覚える。同時にめちゃくちゃ危険だとも思う。そのヒリヒリを責め続ける太田さんの凄さもまたこの本にしっかりと記されていた。


獄中では服従の原理に素直に従った方がいいと、早々に判断したことが倉垣さんのクレバーかつ、社会との繋がりを優先させたいという願いのようにも思えた。


エピローグの締めくくりは、普通にどこでもいる人になっていく姿だったことに安堵を感じた。普通こそが幸せであると分かっているにも関わらず、ヒリヒリしたくなってしまう人間のサガ。それは薬物に限らず、違うものでも当てはまるようにも思える。一度破滅しかけた人間のドキュメントはガツンときた。重く、そして面白かった。


人に勧めたい一冊です。