同時期に二つの戦争映画を見た。

『彼らは生きていた』はピーター・ジャクソン監督が過去の戦争のフィルムをカラー化し、様々な音声記録を編集して仕上げたドキュメンタリー。


こちらは新たなドキュメンタリー体験。まず当時の白黒フィルムをカラー化し、コマ数を全て24コマに変えることで、当時の記録映像を「古めかしいもの」というレイヤーから、「リアリティ」のあるものとして転換することに成功しているように思えました。モノクロの映像というのは当時の映像というその時代性をより強く見せる効果も同時にあるように思えますが、それらがカラーになることで、どこか新鮮により前のめりに映像が見れます。また当時白黒でしか残されていない映像記録をカラーにすることで、「そういうことがあった」という感覚でなく、「自分たちにも起こりうること」としてより強く感じられました。


映画は様々なインタビューの音声記録のコラージュで構成されています。インタビューに答える人たちが映像に出ていなくても、どの言葉も実に印象的に残ります。構成が巧みなのもそうなのでしょうが、それがドキュメンタリーの音声であることで「当時の声」というものを映画的に、そして強度のある物語になっているように思えました。


何より印象的なのは当時の人たちの笑顔だったりです。悲惨な出来事だけでなく、飯盒を食べる時間や、「あそこにカメラがあるから笑おう」といった瞬間に皆が笑って撮られようとする瞬間が非常に印象的でした。戦争映画であるがゆえに戦争の悲惨さ以外の部分も印象的に残ります。そうした隙間のシーケンスには観る側に多面的な視点を提供してくれます。印象に残るというのは、それだけ「意外」だったということなのだと思います。戦争に対してそうしたイメージを持っていないからこそ、彼らの笑顔というものはより印象に残るし、そこにある笑顔について考えたくなります。僕はそこにあるのは悲観的な空気感だけでなく、まさに『彼らは生きていた』というタイトルが示す、「生きていた」という部分が示すような「生活」があったように思えました。『彼らは生きていた』というタイトルが示しているのは彼らのなかなか語られ辛い部分である「普通」の姿で、それらの記録映像がカラー化することで、何かが鮮明に浮かび上がってくる。そんなように思えます。


もちろん戦争の悲惨さも、残されている写真などを使うことで描写されています。映像が限られているからこそ、写真記録と音声のコラージュによって伝えられる戦争というもの歴史と悲惨さが否応なく伝わり、観てる側に戦争というものの問題提起を突きつけてきます。ですが、僕にはよりそうした何気ない日常の姿がより印象的に見えたことが発見であったと思います。




以下、1917に関してはネタバレ込みです。


1917』には『彼らは生きていた』に出てきたような場面が多数あることです。ワンカット風の劇映画という、臨場感のある演出は実に効果的でした。撃墜された戦闘機が目の前に墜落してくるという緊迫感のあるシーン、そしてそのパイロットを救出しようとするも、そのパイロットに撃たれるという一連の流れは「ああああ!」と声が漏れました。緊迫感が持続するからこそ、そのシーンの中で起こる出来事にびっくりしてしまいます。カットを割らないことで、「これはフィクションなんだ」と思い込む余地が入らない。そうしたリアリティの提示が出来るのはもちろんワンカット風に見せる技術の進歩や演出の巧みさによるものではありますが、「こうした形で伝えなくてはならない」という凄味を感じさせました。


全体の構成が

・危険な場所を抜けて伝令を伝えなくてはならない。その指令を伝えなければ多くの仲間が死んでしまう。その伝令を伝えるのは若い兵士2名。


・道中で危険な目にやはり遭う。二人が助け合う。戦時下でしか生まれない連帯と友情が垣間見える。


・道中で仲間が一人死んでしまう。その仲間からの伝言を聞く。


・たった一人での孤独で危険な移動が始まる。


・戦争の恐ろしさを目の当たりする。死骸がある川を抜けたり、滝をダイブしたり、敵兵に追いかけられたり、女性と子供を助けたり、(主人公のタフさ、伝令を伝える決意を示します) ここがどこかゲーム画面にも思えるような感じさえある


・いよいよ合流するも、伝令を聞いてもらえない。


・伝令を伝えるべき上官に会いに行こうと再び危険地帯を行く。


・伝令と、仲間からの最後の伝言を伝えに行く。


と、構成をきちんと羅列すると、映画の骨格はとてもシンプルだというのが分かりますし、その骨格の正体そのものがワンカットであることで分かりやすかったというのもありました。


ワンカット風の新しさに対して、中身の骨格は普遍性がある。だからワンカット風に感動したのではなく、やはりその映画に感動したんだなあと思いました。


「伝えようとする勇気」を持った男の物語。何を持って物語ろうとするのか、こうも技法やアプローチによってここまで有効になる作品もなかなかないのではないかと思いました。


上手く総括することができませんが、そこそこ映画鑑賞をしている私に、やたらと印象深く脳裏に残った二本でございました。