Netflixでよくドキュメンタリー映画を見ます。
昔はよく海外ドキュメンタリーを小さな映画館に観に行ったけど、今はなんたってNetflixで良質な作品がたくさん観られる。

この作品は別格に面白かったというか、自分自身が身につまされるようなものを捉えているなと思って、感心してしまいました。

一つのガラス工場を巡るお話。その工場を司るのは中国企業福輝で、かつてはGM社が隆盛を極めていたオハイオ州の工業都市で多数のアメリカ人労働者がそこで働いている。

段々と中国人とアメリカ人の違いがそこで浮き彫りになるのね。
「中国人は勤勉だから月に1、2回しか休みがないけど、アメリカ人の連中は違う」とか。
中国人側が「アメリカ人は自信家だ。褒めて伸びてきたから、うまくおだててそれを利用するんだ」とかね。
そういう国民性みたいなのが、工場の労働一つとってもあぶり出されるんです。

「労働」を通して、その社会や国といったものを描写しようとするドキュメンタリーはこれまでも沢山見てきたんだけど、本作はその距離感がとても絶妙です。なんというか、労働したときについ出てきてしまう「愚痴」をよく捉えている感じがしました。その愚痴って凄いリアル。誰々が働かないとか、誰々とウマが合わないとか、まあ会社人になら誰でもあるようなことを監督たちはちょうどいい距離感できちんと捉えているんです。

出張してきた中国人に嫌なことを言われたアメリカ人労働者が、そのまま工場の外に出ると「あいつマジでむかつく!」的な言葉を吐いていたり、シーンとして思わず笑ってしまうようなことをすごくきちんとユーモアある距離感で捉えているなーって。とにかく感心してしまったんです。

アメリカ人が中国人のやっている朝礼という文化は素晴らしい!と言って、早速真似るんだけども、朝礼をすると誰も声を出さずにみんなが「意味あるの?」っていう顔をして参加していたり。
僕もついこの間、会社の朝礼って意味あるの?っていう愚痴を友人から聞いたばかりだったから爆笑でした。

そういう身も蓋もないシーンを見ながらにして、自分の在籍する会社と重ね合わせてしまうシーンがとにかく多数だった(笑)


作品はそこから、給与、リストラ、組合のこととか、まあいろんな問題を取り上げてくる。
会長はとにかく組合を作らせたくなかったり、組合を作ろうとする人たちと、組合を作られたら解雇されてしまう恐れを感じる者もいたり、それぞれの立場や主義、主張の違いがだんだんと見えてくる。

その中でやっぱり出てきた「生産性」という言葉。
生産性を上げたい側と、品質を上げたいと思う側との違いがまた出てきたり、
GM社時代には怪我なんてなかったと言っていた男が、現在の労働だと安全が担保されてないじゃないか!と言ったり。

作中に何度も福輝の曹会長が出張に来て、工場を訪れているシーケンスがたくさん。この会長のビジュアルが日系人特有の権力者という絶妙な雰囲気で、また優しそうで、どこか怖いというすごいバランスが見え隠れしているのも絶妙だった。

中国とアメリカという国民性や、体質の違いと、交流、対立。それが沢山浮き彫りになりつつ、見ながら労働ってこういうことの繰り返しだし、こういう摩擦との戦いだよなーってつくづく思ったんです。

やたらと集会や会議があって上司が「未来を作っていこう!」的な声をあげても、疲れ果てている表情の部下たちの顔のコントラストとかね、そういう温度感の違いとか、空気感の捉え方がとにかく絶妙だったなー。

これワイズマンとかの作品ならば、もっと引いた視点で捉えていたんだろうけど、この作品はどれも撮る側に温かさが終始あったのがマジでポイントだと思いました。

終盤は次々に作業を機械化していって、一人、二人、4人と言った具合にリストラが始まり、黒字化していくという終幕に向かっていきます。人間と人間によって作られてきた、そしてその摩擦による問題で大変な思いをしながらも、やっぱり仕事っていいもんだ!っていう人間賛歌には終わらないのね。むしろそういうものが機械にとって変わられる。2030年頃には多くの人たちが仕事を失っているという予測さえされた状態で終わっていくのです。(ウルトラセブンの第四惑星の悪夢のような話だよな。。。)

作品が終了したら、Netflixがそのまま次の番組を再生させる機能があるんだけど、この監督とオバマ夫妻の対談番組になったのね。そこで初めてわかったのが、この映画はオバマ夫妻が製作に携わってるんだって。その中で、オバマはストーリンテリング、物語ることの大事さを説いていたり、監督たちが結論ありきで撮っているわけではなく、現場でいろんな人たちとコミュニケーションをとって信頼関係を得て撮ったという話をしていたり。それが大事なドキュメンタリー論になっていて、ヒジョーによかった。

ここに出ている労働者たちはスーパーヒーローに劣らないヒーローで、彼らの表現を伝えるべきだという話とかね、ああなるほど、と思いました。市井の人々を撮ってもね、そこには市政の人々の表現があるんだなって思いましたね。オバマ夫妻がストーリテリングをすることのパワーやエネルギーに賭けているのがとてもよかったです。政治で行ってきたこと、繋がること、世界をよくしようとする姿勢を、こうしたドキュメンタリー製作でアメリカと中国という二カ国の地に足がついた世界を覗くことで、それを伝えようとする姿勢に僕はとても共感しました。

「押し付けない、論説でない、人々に本当の自分を表現させる」

これは僕にとって理想的なドキュメンタリーのあり方かと思いました。