チチカット・フォーリーズ/Titicut Follies | 愛こそすべて LOVE IS ALL

チチカット・フォーリーズ/Titicut Follies

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 アメリカのドキュメンタリー監督フレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー処女作品であり、完成から24年間マサチューセッツ最高裁判所により上映禁止処分にされていた曰くつきの作品。映画はマサチューセッツ州ブリジット・ウォーター矯正院の様子をドキュメントしている。製作は1967年。この施設は精神異常の犯罪者及び精神異常者をごたまぜに収容した施設(この時点でおかしい!)であるのだが、映画を見てもらえばわかると思うのだが、ほとんど刑務所に近い。精神異常というのは一体どこで正常か異常かを線引きするのが非常に難しいと思うのだけど、そこに法的に責任能力があるかどうか判断する事に対して、正当な理由と妥当な裁量を与えるのはさらに難しい。
 
 基本的人権は昔に比べて間違いなく大事にされてきているし、これから先どんどん基本的人権の範囲はふえていくのであろう。しかし過剰に拡大した基本的人権はやがてお互いぶつかり合い、やがて自らの主張が通ってしまう人達と通せない力の弱い人々とに分断されていく。昨今の日本の状況を見ているとやっぱりまだまだ日本人ってのは侍なんだなと、長い歴史の中培ってきた基本的人権に対する思想が根付いてる西欧とはまったく違うなと感じます。

 さてこの映画が制作されてた1967年当時、精神疾患と抱えた人達の、ブリジット・ウォーター矯正院での扱いとはというと、完全に人間性を否定されています。まるで動物を扱うようなものです、とても人間用の施設とは思えません。用を足すバケツだけ与えられたベッドも何もない独房に、裸で閉じ込められ、ひたすら足を踏みならす収容者。食事を取らなくなったからといって、鼻から胃へチューブを通し流動食を流し込まれる収容者。結局その後死亡してしまう。風呂に入れて収容者が風呂の汚れた水を上手い上手いと言いながら飲んでしまう収容者を、ただはやし立てからかってるだけの看守。ひげを剃ってあげるんだけどかなり適当で終わったら血だらけ。

 おそらくこの矯正院の職員達の頭の中には、収容者を人間として扱う考えなんて少しもなかったのだと思う。職員はみんなとても楽しそうに仕事をしています。映画でよく出てくるのが職員達の陽気な歌声。また映画と最初と最後は施設の学芸会のシーンが挿入されているのだけど、職員達はみんなとても楽しそう、反対に収容者はみんなうわの空。職員達の陽気さを見てると、これはひどいというより”そういうもんだったんだ”というのが正直な感想です、彼らの表情からはひとかけらも罪悪感が感じられない。矯正院は映画の撮影にはとても協力的であったようだし、また当時施設は大学生や高校生などの見学者を積極的に受け入れていた。実際映画が公開されると一般からの反響が非常に大きく、慌てて収容者のプライバシーを理由に上映差し止めにこぎ着けたのであろう。

 こうして見ると人権を定義するのはとても難しい、奴隷制度、人種差別など昔はもっとひどい事をやって来ているのが人間だし、現代でもひどい状況にいる人達もいる。一体どこまで改善されるのはわからないし、改善されずに残されてしまう可能性もある。誰もが皆というのは難しいかもしれないが、少しでも多くの人達が快適に暮らす事ができればいいな。