阿闍梨【外伝】一隅を照らす

❖昭和天皇勅額・『傳教』

四月二十九日は『昭和の日』でした。比叡山延暦寺には、昭和天皇宸筆による『勅額』が掲げられております。

令和元年五月の『比叡山時報』には勅額の意味が書かれておりますのでご紹介させて頂きます。

延暦寺の総本堂根本中堂の堂内の中央正面には、『傳教」 (伝教)の勅額が掲げられています。ちょうどその勅額の下に玉座を示す畳が置かれ、中央の場所は結界で区切られています。この勅額についてご紹介しましょう。

昭和12年7月3日にこの勅額は比叡山延暦寺に下賜されました。天台宗はこの年の春、開創一千百五十年記念法会を執行し、比叡山阿弥陀堂が新築された年でもありました。勅額拝戴の経緯について、この勅額を皇居まで戴きに行かれた天台座主猊下にお伴した延暦寺の檀信徒総代の三名の名で、全国の檀信徒に向けて発行された冊子が残されています。「勅額拝戴に際し全国天台宗檀信徒諸賢に告ぐ」と題されたものです。

冊子の前半には、東叡山寛永寺から宮中への参内の様子、宮内大臣から梅谷孝永天台座主が勅額を拝受され、その後上野公園を多くのお迎えの人々の中を行列して寛永寺に戻られる様子など詳しく報告されています。寛永寺では勅額拝戴の式典を行い、翌4日午前7時54分大津駅着。江若鉄道叡山駅からケーブル坂本駅まで地元の人びと、比叡山専修院、中学小学生等が行列してお迎えしケーブルで山上へ、山上でも叡山学寮の生徒ら全山に雲集の奉迎者の間を根本中堂へ到着されたとあります。そして冊子の後半には、梅谷座主猊下から三人の総代が親しく賜ったお言葉を伝えています。

「伝教」という勅額は、所謂、伝教大師の大師号の勅額ではない。大師号の諡号であれば伝教大師の四字が書かれるはずで、この度の伝教は「教を伝えよ」と訓じて「でんきょう」と濁らずに読み、天台の教えを益々広く伝え弘めよという思し召しを蒙ったのだと拝察する、と仰ったという。「伝教」は日本で最初の大師号として「慈覚大師」と共に清和天皇より賜ったもので、宗祖の業績、天台の教えを日本に伝えたことを称えての「伝教大師」であろうと思われます。しかしその大師号の伝教二字を根本中堂の正面に掲げると、確かに諡（おくりな）ではなく比叡山に与えられた使命と感じられます。

大師が伝えた仏法の伝持、国の宝たる人材の養成、社会と人々の平安のための祈り、これらが変わらぬ比叡山の使命であると示して勅額は総本堂の正面で鎮まっています。令和の御代を迎えるに当たり根本中堂では、4月28日から5月1日の4日間に亘って臨時の御修法を勤めて、御即位の奉祝と天下泰平の祈りを捧げました。

引用　比叡山時報　令和元年五月八日

図説　日本仏教の聖地を訪ねる！最澄と歩く比叡山 (青春文庫い- 35)

阿闍梨【外伝】一隅を照らす『昭和天皇勅額』