阿闍梨【談笑】

❖酒井雄哉阿闍梨VS池上彰対談 1

◆この世で大切なものってなんですか 



◇世の中はくるくる巡っている


池上 時代背景もあるのでしょうか、いま、日本には悩みや苦しみを抱えて生きていらっしゃる方がとても多いように思います。経済的には、バブル経済が一九九一年にはじけてから、どうもいいことがなく、特に若い人は、物心ついたときから経済が低迷し、就職も非常に厳しい。お年寄りも無縁社会の中で、不安を抱えながら暮らしている人が多い。酒井先生のところにも、そうした悩みを抱えた方が多くいらっしゃいますか。


酒井 そうですね、こういう時代だから多いですね。それと、何か考えごとをするにもお寺というところは、都会の喧騒から離れるから、心を静かにしようと思うときにはいいんですよ。木立の中であたりを眺めていると、自然と一体になるような感じがするしね。


池上 人生の苦しみに対して、私たちはどのような姿勢でいればいいのでしょう。


酒井 人生の苦しみ、苦しみっていうのは、大きくいったら、いろんな事柄にぶつかって、悩むことが苦しみになっていくのだと思うけど、世の中っていうのは、よいことも、悪いことも、くるくるまわっているからね。そこを考えてもらうといいんだよ。たとえば、仕事で成功をして調子がいいなあと思って、有頂天になって、天下を取ったぐらいの気持ちでいるじゃない。すると、人間っていうのは、なかなか完璧にはできていないから、どこかで隙ができて、一瞬のうちに足元をすくわれるんだよ。油断だな。


それに、苦しい苦しいと思って悩んでいたとして、その原因を突き詰めて本当に苦しいのか、どうなのかと、とことん自問自答することも必要だし、人に悩みを打ち明けて、意見を聞くのもひとつだし、だいたい、てっぺんに上ったら、あとは下るだけなんだから、上ったり下ったりすることも人生の道と違いますか。そのへんを肝にいれておけばいいと思うけど。


池上 確かに景気をみても、よくなったと思うと落ちますよね。それで、いつしかまた上がり始めますよね。


酒井 ぽーんと勢いよく上がっても一定のところにいくと落ちてしまう。いつしかまた上がっていく。くるくるくるくる、、、、その繰り返しで世の中がまわっているんだね。


この世で大切なものってなんですか 酒井雄哉 池上彰