酒井雄哉大阿闍梨【口伝】

❖阿闍梨の呟き10

◆歩くとは現実を変える行動力だ 





◇歩くとは現実を変える行動力だ


悩み事を相談に来た人に僕がよく言うのは、「くよくよしないで、外を歩いてごらんなさい」っていうこと。これにはちゃんと根拠がある。


仏教用語に「身口意三業」というのがあって、これは「身(からだ)」と「」と「意(心)」、三つの要素を調和させなさいという教えなんだね。


たとえば「常行三昧」という行がある。九十日間、お堂にこもって念仏を唱えながら、阿弥陀さまのまわりをぐるぐると歩き続ける行。僕ら行者は、身に印を結んで歩き、口は呼吸を整えて念仏を唱え、意つまり心のなかでひたすら念ずるというやり方で、身口意三業を実践するんだ。


で、普通の人たちの日常生活で考えたときにどうすればいいかっていうと、「身」はからだを動かすこと、「口」は呼吸を整えること、「意」は心を落ちつかせることになる。この三つがちゃんと調和していると、穏やかな心持ちで暮らせる。それが、それぞればらばらになっていたり、バランスが悪かったりすると、苦しんでしまう。


昔ね、植木なんか剪定するときに使った「三つ又」の考えだよ。三本の脚のうち、一本でも折れたしまったら、どうにもならなくなるじゃない。それと同じで、それぞれが支えあって、用が足りるんだからね。


よく「心とからだがばらばら」と言うけど、思っていることと行動が調和していないと、いろんなことがうまく運ばないし、呼吸も浅いと酸素が体内に十分なや行き渡らないから、動きも鈍くなるし、胸苦しくなる。そうすると心も沈むんだな。


みんな頭で考えることばかり重視しがちで、悩みを理屈で解決できたら、きっと心が晴れるはずだと思っている。からだや呼吸の調和なんてことは全然思ってもいないんだよ。


だから、からだと呼吸と心は密接に結びついてるんだってことを意識して、一日に一回、三十分ぐらいでいいから、外に出て家のまわりでも歩いてみるといいの。呼吸のリズムと歩くペースの話をさっきしたけど、それがうまくできて呼吸がリズムよく、深くできるようになると、心も落ちついてきて、何をくよくよ、うじうじ悩んでたのかな、っていうように変わる。


なぜそれがいいかっていうと、歩くことは「行動する」ことだから、ひとつところにじっとして考えているだけだと、どんなにいいことを考えていたとしても、実践的に現実を変えていくことにはつながっていかない。歩くってことは、自分をどこかの方角に向かって動かすことになるから、必ず何かが変わっていくんだよ。



この世に命を授かりもうして 酒井雄哉