朝、いつものように病棟を歩いていたら、廊下でばったり会った親戚。

内科の病棟。

 

おばあちゃん(母親)が肺炎で入院しているとは聞いていた。

90歳を越えた高齢者が肺炎と診断されての入院は、永くはないと言うこと。

 

医師に「もって3日」とか「今夜が峠」などと言われる事になる。

その親戚も「今夜が・・・」のケースだったよう。

 

ナースセンター隣の重篤患者の部屋。

 

心電図モニターに乱れた間隔の波形とポッポッポの電子音。

もともと不整脈があるらしい。

 

 

波形がフラットになり電子音が途切れる。

「ばあちゃん!」と、お嫁さん(元看護師)がかなり強くお婆ちゃんの頬を叩く。

 

波形が現れて電子音再開。

 

ビンタの威力は凄いなと内心思ったけど、もう静に送ってあげても良いんじゃないかとも思った。

 

既に意識はない状態だし、痛みも苦しみもないはず。

やがて大きく深呼吸するかのように胸が動き、モニターは一本の横線に。

 

 

親戚夫婦とアタクシは病室から出され、エンジェルケア(メイク)が始まった。

 

普通は葬儀社のご遺体搬送車(霊柩寝台車)の手配となるのでしょうが、この親戚は自分で帰宅するという。

 

後部座席にお嫁さんが乗り、お嫁さんの膝の上にお婆ちゃんが抱きかかえられるようにして乗って。

 

お嫁さんは元病棟看護師だけに、ご遺体の扱いはある意味慣れているのかも。

まるでミケランジェロのピエタ像のような恰好で、お婆ちゃんは帰宅していった。

 

 

職場に戻ったアタクシはフトある事に気付く。

日常的に人が死んでいく現場にいると、なんら感慨が湧かなくなるものらしい。

 

乗用車にお婆ちゃんを乗せるのを手伝ったけど、特に思う事もなかった。

 

毎日のようにストレッチャーに白い布を掛けられ、葬儀社の寝台車に載せられていくご遺体を見てると特別な感情は薄れていくようだ。

 

寝台車が角を曲がって見えなくなるまで担当看護師は頭を下げているけど、彼女らにしてみても、お見送りは職責の一つでしかないのだろう。