今回の作品紹介は、冒頭から恋愛科学的な解説をスタート。


「はたして理解できるだろうか?」
それが私の中で最も際立った印象だった。



カラダの中に子を宿す使命を抱えた女性は本能的に愛を感じることができる生き物。

その本能的な反応がときとして「感情的」という薄っぺらい言葉に書き換えられ揶揄されることがしばしばあります。それを快く思っていない女性は少なくありません。

だから、本当に私は試写後に「理解できるだろうか?」とうならずにはいられなかった。禁断の愛そのものが理解されるに及ばないことが多々ある中で、今回の作品の禁断は禁断でもこれ以上突き詰めるところがないといえるほどの究極さで鬼才を放っていることも、私の考えを加速させていました。

ひとことでいうなら、限りなくインモラルな世界です。


激昂する女の究極の愛を見事に演じきった花の役を演じる二階堂ふみさんが18歳になるのを待ってクランクインされたところにもこの作品に魂をかけた意気込みが感じられます。人間の女性を生物として捉えた場合に人生で一番不安定な感情を抱えて美しく鋭利に尖るのは10代後半だからです。

二階堂ふみだからこそ演じられた“花”

あどけない感情と大人びた感情が交差する花の心の機微を演じきれるのは、彼女しかいない。


女の本音としては、生半可な愛はいらないのです。それこそ、心が狂うほどの「私の男」を命かけて欲する。「私の男」と認めた男の人生をがっ!と掴み、むしりとる。その激愛の感覚は、男にはわからない。ときとしてその感情は男には恐怖になるから。




ただ、花は自分の心からの叫びを忠実に守ろうとするあまり、間違いを犯したのかもしれません。

「俺は、おまえのもんだ」

家族を突然の不慮の災害で失い、幼き心にびゅーびゅーと冷たい風が吹き荒れているときに淳悟にそう告げられた花。それ以来、ひとりきりの寂しさから求めた「心の分かち合いや共鳴」と「本当の愛」の意味を、心震えながらはき違えてしまっていることがわかるストーリー中の花の言葉の数々。


「あのひとね。他人じゃダメなの。知ってた?寂しくてじっとガマンしているの」

「あのひとは心が欲しいんだよ」

「全部、私のもんだ」


災害で両親を亡くした花と、花をひきとった遠い親戚だという淳悟(じゅんご)の2人の動向を傍で静かに見守り続けてきた大塩老人(藤竜也)は淳悟にこう言い放つ。


大塩:「あんたには家族のつくりかたなんてわからんよ」

そして、花にも。

大塩:「男と女ってのはしつこいもんなんだよ」

花:「男とか女とか関係ないもん!」

大塩:「あの男とあんたはね・・・」

花: 「のまれて消えればいい!!! 

    ○○○○○!!

    なにしたってあれは私の全部だ!」


!!!

あぁ、なんたること。そうか。そうなのか。


この○○○○○!!のセリフですべての真実が明らかになる。
(※注:たくさんのセリフがつまっています)

「後悔なんてしない。好きな人にも、させたくない」





だが、花がそう言い切っていても自分の心の成長には逆らえない。

「小さい頃、あの人のことはなんだってわかったんです。でも、少しもわからなくなった・・・」

様々な経験を積み大人になった花が、花に気のある同じ職場の尾崎(高良健吾)にそう語る。

そして、迎えるラストシーン。ラストを華々しく飾る見事なまでに成長した“花”の妖艶な美しさは、ラストに相応しい極上で淫靡な時間を紡いでくれる。

私の肌という肌の毛穴総毛立ち、血が沸き立つ・・・時が止まる。

心の底からわき起こるザワザワ感が引き寄せられた。

淳悟さえも驚愕するラストはぜひ劇場で。


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2014年 モスクワ国際映画祭 コンペティション部門正式出品作品。
原作は、第138回直木賞受賞作「私の男」。

荒牧は原作を読まずにまっさらな状態で本作品を鑑賞させていただきました。原作者は桜庭一樹氏という男性のような名前の女性とのこと。うん。そうね。

◆ストーリー

奥尻島を襲った大地震による津波で家族を失った10歳の花(二階堂ふみ)は、遠い親戚と名乗る男・腐野淳悟(浅野忠信)に引き取られることになった。ときはながれ、春から中学生になる花と、海上保安庁で働く淳悟は、ふたり寄り添うように暮らしていた。淳悟は地元の銀行に勤める恋人・小町と情事を重ねていたが、どこか心にあらず。小町は、すべてを見透かしたように淳悟へのまっすぐな思いを自分に語る花に苛立ちを隠せずにいた。孤児になった当初から花のことを気にかけ、ずっとふたりの生活を見守っていた大塩(藤竜也)も、そんな不安定さが垣間見える淳悟と花のふたりを気に病んでいた。4年後の冬、町が由紀に包まれ、流氷がやってきたころ高校生になった花と淳悟のただならぬ関係に気がついた大塩がとった行動に花が遂に本音をさらけだす行動に移してしまう・・・。


◆キャスト

憂いと影を帯びながらも、どこか優雅な男「淳悟」を演じるのは、数々のハリウッド大作に出演する一方、今年「ロング・グッドバイ」(NHK)で自身にとっても連続ドラマ初主演するなど、日本を代表する役者としてますますその演技と活動の幅を拡げている浅野忠信。


孤児となり淳悟に引き取られる少女「花」を演じるのは、16歳にしてヴェネチア国際映画祭最優秀新人賞を受賞した二階堂ふみ。昨年も『地獄でなぜ悪い』、『四十九日のレシピ』、『脳男』の熱演で、ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。どんな役柄であっても、圧倒的な存在感を放つ稀有な女優である。本作は、二階堂が18歳になるのを待ってクランクイン。


物語の鍵を握り、淳悟と花を見守る地元の名士でふたりの遠縁にあたる大塩を大島渚監督の『愛のコリーダ』で世界を挑発した藤竜也。東京に移った淳悟と花の心の変化を映す存在として登場する青年・美郎を高良健吾。大塩の死に疑問を抱く地元の警察官・田岡にモロ師岡、淳悟の恋人・小町に河井青葉、幼少時の花にNHK連続テレビ小説「花子とアン」への出演が決まっている山田望叶(新人)がそれぞれ扮し、物語にさらなる奥行きと深みを与えている。


※個人的には、二階堂ふみさんの素晴らしい存在感と演技はもちろんなんですが、100人の中からオーディションで選ばれた花の幼少期を演じた山田望叶(やまだもちか)ちゃんが、二階堂ふみさんにそっくりなことと、キリキリと心痛むほどの役を見事に演じきっていることに労いの言葉と拍手を送りたいです。

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映画『私の男』http://watashi-no-otoko.com/
6月14日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
©2014「私の男」製作委員会
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+ 荒牧佳代 +



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