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初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ)
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Early Autumn (Spenser) by Robert B. Parker(1992...
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ロバート・B・パーカー(Robert Brown Parker, 1932~ 2010)は、米国の推理小説作家。マサチューセッツ州で生まれ死んだ。
1973年、マッチョな私立探偵スペンサーを主人公とし「ゴッドウルフの行方」The Godwulf Manuscript)でスペンサー・シリーズを開始し、同シリーズは2011年までに39巻発表している。他にジェッシィ・ストーン・シリーズ、サニー・ランドル・シリーズなどがある。
ハードボイルド作家とされるが、ハメット、チャンドラー、ロス・マクの流れとはかなり作風が異なる。スペンサーはマッチョで、もてる。饒舌で感傷的である。面倒な議論はせず、直截である。
パーカーは文学を専攻し、大学で文学の講義をしていた人物である。一般大衆受けするスペンサーを生み出したのは、彼の文学的嗜好ではなく商売っ気であろう。
英米ではパーカーのファンは多く、現在でもベストセラー作家に名を連ねている(ベストセラー150位に入っている故人となっている作家としては他にアガサ・クリスティ、P・D・ジェームズ程度)。
彼の死後、スペンサーシリーズはエース・アトキンス(彼もまた、ベストセラ―作家)によって書き継がれており、アトキンス作スペンサーシリーズも2019年までに8巻発売されている。
スペンサー物語は、いつまでもアメリカ人の心を掴んで離さないようだ。
本書は1980年発表のスペンサーシリーズ第7巻目。日本語版(菊池光訳)は1982年に出ている。当時、非常に話題になった本である。だから、友達はパーカーを知らなくても、お爺ちゃんやパパはパーカーを知っているのである。
ミステリー作品だが、謎解きはないに等しい。事件は起きない。探偵小説ファンなら呆気にとられるだろう。推理小説を読むつもりで人情小説を読んでしまったと思うかもしれない。ロマンス小説を読むつもりでポルノを読んでしまうのとは違う。犯人探しのないミステリなど読者は予感していないからである。
パーカーはミステリを書きたかったのではなく、スペンサーを書きたかったのだろう。そんな思いが伝わるシリーズ中の傑作である。
<作品概要>
マサチュセッツ州ボストンの私立探偵スペンサーは、再開発で事務所を追い出され、バークレー通りにある銀行の2階の事務所に移転した。忙しくはない。エクササイズのためジムに通って体調維持に努めている。ジムにはホークがいて、一緒に運動やスパーリングをする。彼らが初めると回りに観客が集まり歓声を上げる。スペンサーは元ボクサーだった。ホークは無敵のマッチョマンで、黒人だが親友だ。
恋人の精神科医スーザンは忙しい。だが、週末には会うように努めている。彼女はブロンコに乗っており、スペンサーはMGを持っている。
事務所に依頼者が来た。息子ポールが、別れた夫メル・ジャコミンに連れ去られたので取り返して欲しいと。妖艶な婦人で、パティ・ジャコミンだと名乗った。別れたばかりだが前夫の居所は知らないという。イタチごっこになるだけなので無駄だといったが、それでもいいと前金を出したので引き受けた。
メルは不動産取引、保険代理店業を営んでおり市内に事務所があった。スペンサーは事務所を見張り、メルの愛人らしき女エレイン・ブルックスを見付け、尾行してメルの住居に辿り着いた。
メル宅に入り込み、メルにポールを返せと言った。メルは抵抗したが、スペンサーの体力には敵わない。「好きにしろ」と言った。ポールはやせ細った少年だった。「どうする?」と聞くと肩をすぼめた。どうでもいいと。
ポールをパティ宅に連れて行った。パティは男、スティーヴンと飲んでいた。「早かったのね。そんな早いと思わなかったので、ディナーの予約したの。金は出すから預かっていてくれない?」と言われた。ポールに聞くと、肩をすぼめた。スペンサーはポールと料理屋に行って夜まで過ごした。
パティもメルも、ポールを手元に置こうとするのは相手への嫌がらせだった。ポールを愛しているからではない。ポールは無気力で無感動な子だった。どうでもいいと。スペンサーはポールが気になった。
パティから慌てて電話があった。ポールが学校からの帰りに連れ去られそうになった。当分、パティ宅に同居して守ってくれという。スペンサーは3階建ての一階の部屋で寝起きし、ポールの送迎をする事になった。パティは張り切って食事を準備するようになった。ポールは3階の自室に引き籠ってテレビをみるだけ。外に誘っても、肩をすぼめるだけで応じない。パティは月に一回はニューヨークに行く。息抜きだと。
男が二人、「ポールを連れて行く」とパティ宅に押し入ってきた。一人は、スペンサーが知っているバディだった。コソ泥、放火、自動車盗などケチな稼業をしているゴロツキである。もう一人のハロルドはスペンサーを知らない。殴りかかって倒された。バディは「あんたがいるとは聞いていなかった」とハロルドを連れて帰って行った。
パティが艶め かしい姿で誘ってきた。スペンサーは、スーザンがいるし仕事だと拒絶した。パティは泣いた。
パティが買い物に行って拉致された。スペンサーにポールと引き替えようと電話があった。マサチュセッツ橋の両側からパティとポールを歩かせて交換する事にした。
ジムに行って、ホークにパティを拉致した男達を数人制圧するように頼んだ。
マサチュセッツ橋際からポールを歩かせた。中央でパティと会う寸前、スペンサーはMGで飛び出し、ポールを車に乗せ、パティに運転させて逃げさせた。ポールにスーザン宅を教えていた。
その時、男達の車がぶつけられた。ぶつけた車からホークが飛び出して車内から男達を引き出した。銃を撃つ間もなく、男の一人は川に投げ込まれた。スペンサーも男達の方に走った。
残った男達も倒された。サイレンが聞こえ、ホークとスペンサーは現場を離れ、スーザン宅に向かった。
ポールの奪還ゲームは血腥くなっている。スペンサーはパティにメルと話し合うように勧めた。パティは、メルはギャングと知り合いなので話せば殺されると言う。だが、永遠にスーザン宅に隠れている事は出来ない。パティは知合いを頼る事にした。スティーヴンは子供が嫌いなのでポールを預かってくれと言う。パティの依頼というより、ポールが気がかりなスペンサーは引き受ける。
まだ15歳のポールには酷だが、早く自立させるしかない。身勝手な両親の下では、ポールは益々駄目な、空っぽの人間になる。スーザンと相談した。
スペンサーは、スーザンのブロンコでポールとニューハンプシャー、ノースコンウェイに出発した。山奥の湖の畔にスーザンの山荘がある。車にはエクササイズ用品、大工道具も積んでいる。
庭でウェイトリフティングが出来るよう準備し、木にサンドバッグを吊るした。ポールとエクササイズをし、家を建てる事にした。肩をすぼめるだけだったポールは、抵抗を始めたがスペンサーと一緒に動くようになった。運動をして規則正しい生活をする。ポールのグローブが規則正しい音を立てるようになった。テレビはない。山荘に置いている本を読み始めた。ダンスの本に興味を持ったようだった。
小屋の土台ができ、柱を建てた。信じられない顔をした。家を建てるのは大工にしか出来ないと思っていたと言った。血色がよくなった。肩をすぼめる事がなくなった。
スペンサーが飲んでいるビールを見て、「飲ませて」と言った。おいしそうに飲んだ。「バレーを見たい」と言った。
ボストンに行って、スーザンに会い、ポールをバレーに連れて行った。踊りを習いたいようだった。ポールに聞くと両親が許してくれる訳がないと言う。父は「踊っているのはホモだ」と言い、母は「男らしくない」と。ポールは、なにかを希望したことがない。ケチをつけられて潰されるだけ。
スペンサーはスーザンに寄宿制のダンススクールを探すよう頼んで山に戻った。
パティが山荘に来た。ポールを連れて戻る。メルに預けると話がついたと。いつまでもポールをスペンサーに預けてはおれない。パティは先細る金の心配をしていた。
ポールは「帰りたくない」とはっきり言った。スペンサーはうなずいた。パティは「金は払わない」と怒って帰っていった。
スーザン宅に戻って相談した。この状態をいつまでも続ける事は出来ない。
スペンサーは、メルとパティの弱みを掴んでポールの希望を通せばいいと考えた。不愉快な思いをする事になるポールに聞くと、彼は協力すると言った。「彼らは嫌いだ」と。
バーでバディを待ち受け、脅して喋らせた。メルは町で中古車センターを隠れ蓑にしている悪党ハリー・カトンとつるんでいると。中古車センターに行ったが、子分に囲まれた彼はメルから手を引けというばかりだった。痛めつけて帰った。
メルの事務所に忍び込んだ。奥のフォルダーに隠されていた住所録を見付けただけだった。
ホークが来て、「スペンサー殺しを5千ドルで頼まれた。1万ドル以下ではやらないと言ったら帰った」と言う。ハリー・カートンは誰かに頼んだはずだ。「暇だから、ついていてやる」とスペンサーを護衛した。
パティ宅に忍び込んだ。領収書の控えぐらいしかなかったが、毎月通っていたニューヨークのホテルが分かった。スーザンとポールを連れて、スペンサーはニューヨークに行き、該当のホテルに宿泊した。二人を市内見学に送り出して、スペンサーはホテル付探偵を通じパティの行動を洗った。写真を見たバーテンダーは、「バーに男を漁りに来ていた女」と証言した。
スーザン宅にブロンコで戻り、二人を降ろすと停車していた車がエンジンをかけた。二人を伏せさせた。車は発砲して逃げ去った。ブロンコに銃穴が刻まれただけだった。
メルの住所録の住宅に行ってみると火事跡ばかりだった。メルが住宅と火災保険を準備し、ハリーに伝え、バディが放火しているようだった。手違いがあったようで、一件では2名焼け死んでいた。
ホークとハリーの中古車センターに行った。ハリーは、メルとの悪事をスペンサーに知られたと思い生かしておくわけにはいかなくなっていた。バディもいた。バディは逃げたが手下たちは襲ってきた。ホークとスペンサーの動きは速い。手下たちは殺され、銃を落としてハリーも倒れた。
ホークが「ハリーを殺せ!」と言う、スペンサーは「床に倒れている者を殺せない」と答えた。銃声がした。「俺は殺せる」とホークが言った。
メルのオフィスに行き、保険金詐欺を表沙汰にしない、ポールのダンススクールの学費と生活費を出せと交渉した。抵抗したが了承した。ハリーが死んだ事を知れば文句を言わずに払い続けるだろう。告発されれば保険金詐欺だけでなく、焼死者の殺人の責任も追及される。
スーザンから、「それで正義をはたすことになるの?」と言われた。メルを告発すれば、ポールが困る。スペンサーにはポールの自立が正義だった。
パティを呼んだ。ポールに関わればホテルでの行状をスティーヴンに告げると話した。彼女は、男なら問題にもならないのにと言いながらもスペンサーに服した。
ポールはスーザンが見つけたダンス学院に見学に行き、気に入って寄宿する事になった。
スペンサーはポールと山荘に戻った。ポールは柱に跨り、棟木を取り付けた。棟上げが終わって、二人でシャンパンで乾杯した。
森は、もうすぐ冬だった。