ローラ・チャイルズ(Laura childs)は2002年刊行の「お茶と探偵シリーズ」(2019年現在21巻まで出版)で出て来たコージーミステリ作家。2003年「Scrapbook Mysteries」(日本語未訳)、2008年「卵料理のカフェシリーズ」を開始し、各シリーズとも概ね年1冊のペースで同時並行で発表している。

 

本書は「お茶と探偵シリーズ」の3巻目。日本でも好評のようで英語で発表後、あまり遅れずに日本語版(東野さやか訳)が出ているのは有難い。ローラ・チャイルド作品は以前はKindle版がなかったのだが、現在では入手可能になったので手軽に英語版を読むことも出来る。

 

 本作品でも歴史の町チャールストンの風景のなかで、お茶、ティーの蘊蓄が思い切り語られる。お約束のメニュー付なので南部の飲み物、食事をビビッドに感じることも出来る(メニューで仕上がりを想像できる方に限る)。

 ミステリなので人は殺されます。ローラチャイルドは、犯罪都市チャールストンの魅力を伝えようとしているのではなかろうか。

 「殺人事件大好きな方はチャールストンへようこそ」

 

 コージーなので、余計な事は考えないで、面白く読めばいいのです。

 

<ストーリー>

 チャールストンの歴史地区チャーチストリートで「インディゴ・ティショップ」を営むセオドア・ブラウニングは近くにある由緒あるホテル「レディ・グッドウッド・イン」でお客様に茶を出していた。ファッションショップを経営しているドレインの姪カミールとジョージア州サヴァナの名家の出身のブキャナン海兵隊大尉の婚約披露ディナーパーティが行われる事になっている。ディナーパーティは玄関ホールに続く元温室だったガ―ディンルームで開催予定で、会場ではブキャナン家に伝わるエステート・ジュエリー(由緒ある宝石)が婚約指輪として披露されることになっていた。

 

 会場の扉が開くのを待っている客たちに轟音が響いた。会場に入ってみると、激しくガラス天井が落ちており、下にはブキャナン大尉が倒れていた。披露する予定だった宝石は紛失した。カミールは未婚のまま未亡人となり、パーティを計画したドレインは嘆いた。ケータリングを頼まれ、ディナー客として招待されてもいたセオドアも他人ごとではない。

 事件は老朽化した建築物による事故となりそうであった。

 

 チャールストンのヘリテッジ協会で名宝秘宝展を開催することになっていた。協会で保有している宝石だけでなく各地の協会、名家と提携して定期的に開催する催しである。今回は、とある富豪が買い取ったインドのマハラジャに伝わっていた宝石ブルー・カミソールが目玉である。秘宝展の委員でチャールストンの宝石店ハーツ・ディザイアのコンサルタント、エアリンの努力である。

 

 関係者だけを集めた前夜祭の最中、ブルー・カシミールが盗まれた。間近で警備していたドーランは重傷を負った。秘宝展に宝石を提供してくれていた団体は知らせを聞いて引き上げを決めた。ヘリテッジ協会会長のティモシー・ネヴィルは苦しい立場に追い込まれた。

 その上、長年協会で働いているクレアがハーツデザイアに宝石を持ち込んだことが判明し、宝石泥棒の嫌疑が掛かった。ティモシーは彼女を失いたくなかったが協会の役員からは始末を要求された。

 ティモシーはセオドアの隠れたファンであり、またショップのティソムリエ・ブレンダーのドレイトンは協会の役員でティモシーと親しい。ティモシーはセオドアに頼り、セオドアも応えたい。

 

 セオドアは知人の殺人課テッドウェル刑事に相談した。事件は窃盗班が追っているという。警察ではブキャナン大尉の件は事故で無関係とされていた。

 

 婚約披露パーティ、ヘリテッジ協会前夜祭、両方に参加していたウィター、グラハム・カーモディを見つけた。ネットオークションで骨董品を出品している。怪しいが、セオドアには決め手が見つからない。

 

 クレアのデスクの引き出しからデレインの高級時計が見つかった。クレアへの嫌疑は増すばかりだが、ティモシーはクレアを信じているし、セオドアも胡散臭さを感じるばかり。

 

 セオドアはティショップで発売を予定している「Tバス」(浴用茶)の内覧会を行った。盛況で、ハーツデザイアの店主ブルックとコンサルのエアリンも来てくれた。

 低地地方の亡父の実家でもある元大農園に住む叔母のリビーも来てくれた。

 

 テッドウェル刑事が来た。一般公開されていた元修道院から骨董品の茶筒が盗まれたという。

 明日からヘリテッジ協会の一般公開が始まる。犯人の手掛かりはない。セオドアはドレイトンと相談し、犯人の目を引く出品をして誘き寄せようと考えた。切手が窃盗の対象として理想的だが、ドレイトンは切手収集歴30年、ティモシーは40年だが超貴重切手は持っていない。セオドアはリディア叔母さんが家伝の1869年発行のZグリル切手を持っていることを思い出した。

 セオドアはリディア叔母さんに切手を借りに行き、ドレイトンは知り合いの記者に頼んで大急ぎで夕刊に記事を出してもらった。切手はドレイトンが出品することにしていた。

 

 会場で出品する前に狙われる惧れもある。セオドアは愛犬アールグレイと一緒にドレイトン家のドレッサーに隠れて切手を見張ることにした。

 窓が開いてエアリンが侵入してきた。セオドアは見つかって携帯を取り上げられてしまった。素早い動きでベランダに逃げたエアリンをアールグレイが追い縋り、セオドアは近くにあったチューブで接着剤を頭にかけた。瞬間接着剤でエアリンの頭はベランダに張り付いた。

 

 エアリンは山育ちで登山は得意だった。クライミング道具でレディ・グッドウッド・インのガラス屋根からロープを伝い降りて宝石を盗む予定が、足を踏み外してガラス屋根を壊し、大尉の上に落ちたのだった。

 ヘリテッジ協会の委員をしていたのでクレアのデスクに盗んだデレインの時計を置くのは簡単だった。ハーツディザイアに宝石を売りに来たクレアを匿名で協会に通報したのもエアリンだった。宝石はクレアが遺産として譲り受けたものだった。

 

 パトカーが次々と到着し、歴史地区にあるドレイトンの家の近所は大騒ぎになった。テッドウェル刑事も来た。エアリンが盗んだ宝石や骨董品は逃走のため用意していた車に積まれていた。