原題は「The J. Alfred Prufrck Murders」

 

 コージーミステリーでは老人たちが大活躍である。分かりやすくコージーミステリーを紹介している米国サイトcozy-mistery.com(https://www.cozy-mystery.com/ )では老人探偵(Senior Sleuth mysteries )ものとして106名の作家のシリーズを列挙している。退職した教師や牧師、探偵、年老いた俳優、各種商売の店主、なんでもありである。

 

 コリン・ホルト・ソーヤー(1920頃~?)は、そのものズバリの老人ホームを舞台にしたミステリー、<海の上のカムデン>シリーズを書いた。ソーヤーはミネソタ大学から英バーミンガム大学に進み文学の博士号を取り、米国の大学で講義したりメディアのマルチタレントを務めた後、老人ホームに入居し本シリーズを発表したのだそうな。本シリーズは「旅のお供に殺人を」Murder Ole!まで8巻出ており全巻日本語版もある(中村有希訳)。8巻目までメインキャラ二人は元気なので安心して読める。9巻目もあるようだが状況不明で未読。

 

 本書はシリーズ初で、殺人事件の犯人探しがメインプロットだが老人ホーム(軍の将官や医者たちが入居する高級老人ホーム)の状況や入居者の人間関係の描写に多くが割かれている。これで米国の老人事情がわかる・・・などと思ったら大間違いなのだろうが(サラ・パレッキーのミステリーに教会付属の老人施設で死を待つ見捨てられた老人たちが描かれていたりしますね)、コージーだから楽しめばいいのである。

 

 本書のメインキャラ、アンジェラは入居8年目、キャレドニアは入居20年の女性である。さすがにアクションは無理だが積極果敢な大騒ぎ、見栄も張れば恋もする。コージーの大先輩、シャーロット・マクロウドの「ヴァイキング、ヴァイキング」に105歳のミスと妻を亡くしたばかりの103歳の元教授が一目惚れして結婚する場面があるがありそうに思えてくるから不思議である。

 

 ニッポンのおばあちゃん達もがんばっているのでしょうね、きっと・・・

 

<ストーリー>

 カリフォルニア州サンディエゴの近郊の昔リゾート地として栄えた場所に高級老人ホーム「海の上のカムデン」がある。ハイウェイが出来てリゾート客の流れが変わり見捨てられたリゾートホテルを改装し、海に面した中庭の両脇にも各5~6棟コテッジを建てた。各コテッジは5~6室あり夫婦者が多い。本館前の通りの向かいには附属病院がある。

 

 元海軍提督夫人アンジェラ・ベンボウは夫の庇護のもとわがまま勝手に過ごしてきたが未亡人となってからというもの付き合ってくれる人たちがいなくなり、8年前に「海の上のカムデン」に移ってきた。歯に衣着せぬ性格は如何ともしがたく敵が増えるばかりである。だが、20年前からいる元海軍提督未亡人のキャレドニア・ウィンゲートはアンジェラを好ましく思っており親しく付き合っている。アンジェラは小柄で痩せているのに対し、キャレドニアは特大級に大柄で、性格も正反対だからかもしれない。

 

 二人といつも一緒なのがナンシーとステラである。ナンシーは引退した歯科医の妻で、今は太っちょだが昔は俳優だったと云う。夫のドクター・チャーチは老齢で痴呆症になり附属病院に入院している。ナンシーが出演した映画を話題にすることはなかったし、誰も見たものはいなかった。

 ステラは銀行家の未亡人だが大富豪でボストンの名家の令嬢だと云う。スリムで大人しく、いつもかぎ編みをしながら話を聞くのでみんなに愛されていた。人の話は聞かず喋りたがる老人ばかりだから。

 

 入居者のスイーティー・ギルフィラが海岸に降りる階段の下で死んでいるのが発見された。めった刺しにされており、財布や貴重品は盗まれてはいなかった。老人ホームは大騒ぎ。マルティネス警部とスワンソン巡査が入居者への質問を始めた。アンジェラ達4人は犯人を見付けようと相談がまとまった。

 

  アンジェラとキャレドニアはスイーティーの部屋を調べようと侵入した。スイーティーは引退した司書なので資産は多いはずもなく、部屋は狭かった。部屋はひどく荒らされており、寝室には、いつも質素だったスイーティーには似つかわしくないシルクの衣装や宝石が散在していた。

 間違えてスイーティーのポーチを持ち帰ったアンジェラは脅迫状らしきメモを見付ける。暗号化されており、相手は「怒りんぼ」「黒い騎士」などとされ数人いた。金額は多くはないが、数人から毎月集金していたようだ。

 

 隣室のグローガン老人は轢き逃げで服役していた事を知られ脅されており、支配人のトゥーガスンは娘がドラッグ中毒である事をネタに居室を無償で提供していた。アンジェラはマルティネス警部に知らせた。メキシコ系でイケメンなのでアンジェラの好みであり、警部もアンジェラを味方につけて情報を引き出そうと、お追従のひとつやふたつを惜しもうとはしなかった。

 

 ポーレット・パイパーが普段は使われていない非常階段から落ちて死んだ。いつも厚化粧の、ピンヒールの派手な老女で、人の話を立ち聞きするのが好みだった。ポーレットは突き落とされており、事件は深刻さを増した。臆病なナンシーとステラは手を引いた。アンジェラは頑固に犯人探しを主張し、キャレドニアも従った。

 

 入居者マリアン・リトルブルックの痴呆症の夫レンがドイツ人で元SS親衛隊員である事を隠していた。表ざたになれなば送還されて処罰されることになりかねないのでスイーティーの脅迫に屈していた。スイーティーの脅迫を知ったポーレットはマリアンに引き続き、自分に支払いを求めていたのだった。

 

 再度、スイーティーの部屋に忍び込んだアンジェラはポルノも網羅したB級映画年鑑を見付け、ナンシーがポルノに出演していた事をネタに、スイーティーに脅されていたと知る。夫が死んだばかりのナンシーは意気消沈しており、アンジェラに正直に話す。病院の支払いもかさみ、資産が底をつきスイーティーが負担だったと。夫を亡くしたばかりのナンシーである。そっとして戻ったアンジェラだったが、翌朝彼女は「後悔している」という遺書を残して死んでいた。

 

 事件は解決したかに見えたが、アンジェラはステラのカギ棒がプラスチックに代わっていることに気づく。また、キャレドニアが居住者に贈り、殺人現場に残されていたクリップキーホルダーはステラのものだと探り出す。ステラは名門チェンバース家のただ一人残った相続人だったが、養女で私生児だった事をスイーティーが探り出していた。余人にはたいしたことではなくとも、誇り高いステラには耐えられない事だった。

 

 アンジェラに知らされて、マルティネス警部はステラを逮捕したが精神病院に送ることになるだろうと言った。脅された人たちをそっとして欲しいというアンジェラの懇願にマルティネス警部は「何も知らない」と答えてキスした。

 大喜びのアンジェラだったが、「あなたを見ているとレディだったおばあちゃんを思い出します」と言われてガックリした。