ローラ・チャイルズ(Laura childs)は本名ゲリー・シュミット、自分のマーケティング会社のCEOとしてTV番組などを企画し成功していたが、合間に書いたコージーミステリーがベストセラーになり、現在は作家業に忙しいという。
2002年「お茶と探偵シリーズ」(現在18巻まで出版)、2003年「Scrapbook Mysteries」(未訳現在まで13巻出版)、2008年「卵料理のカフェシリーズ」(現在まで7巻出版)を出している。教授の夫君がいるようだがプライベートが不詳な作家のひとりである。
2008年末にインタビューに応じており、「スリラーを書いていたが、編集者に受け入れられずコージーを書いた。だが、クラシックコージーではなく。ハイブリッドコージーで、”thrillzy”と言っておきたい」と語っている。お茶と探偵シリーズの第1巻は編集者受けを狙ったと語っている通り、明らかにクラシックコージーだが第5巻「 ジャスミン・ティーは幽霊と」(2007年)など、シリーズが進行するにつれスリラー色の強い作品も発表している。叙述も三人称多視点で、ストリーテリング調が混じりロマンス小説ならともかくミステリーとしては描写が甘い。
ローラ・チャイルズはKindle版を拒否しているようだ。よくある書店愛からの作家の矜持というよりマーケティング専門家ならではの計算なのであろうが簡単に英語版を入手できないのは残念。今更、ペーパーバックでもないよね。
本書「ダージリンは死を招く」はお茶と探偵シリーズ(Tea Shop Mystery)の第1巻。せわしないマーケティング会社での日常に疑問を感じて、サウスカロライナの古都チャールストンの歴史地区に茶店「インディゴ・ティーショップ」を開店したセオドシア・ブラウニングの舞台まわりが語られる。
読みどころはチャールストンの有様、茶の蘊蓄であり、殺人事件と軽いロマンスが繋ぎとなっている。
本書を読むときにはグーグルマップのストリート・ビューをお勧めしたい。ティーショップのあるチャーチストリートや近隣の歴史地区など本書に出る地域の美しい景観をセオドシアの目で眺める事が出来る(もちろん、インディゴティーショップはありませんよ)。また、この時期、米国ではティーが流行り始めていたようで、文中にも「茶は市場規模50億ドルになりブームの兆しがあり、コーヒーショップでもメニューにティを加えるようになっており、ボトル茶も大変な売れ行き」とある。そういえば、クレオ・コイルのコーヒーショップシリーズでもメニューにティーがありましたね(ティーバッグだったけど)。
日本でも好評のようで本シリーズは出版後2年弱で日本語版(東野さやか訳)が出ている。お気楽にミステリーを楽しみたいお茶派には読まない訳にはいかない一冊である(ボクもほぼ全巻読んでしまいました、コーヒー派ですが)。その上、三泊四日でアメリカ南部観光に出かけるより、はるかにチャールストンの歴史や雰囲気に浸ることが出来る。
<ストーリー>
セオドシア・ブラウニングは広告会社のマーケティング担当として成功していたが疑問を感じてチャールストンのチャーチストリートにティーショップ「インディゴ・ティショップ」を開いた36歳の女性。育ったのはチャールストン西南のホールベック・クリークにある「ケインリッジ農園」で今も叔母のリディアが住んでいる。
セオドシアはティーショップで茶の販売、ティーサロン、ギフト販売を行い商売は順調である。店には、全米で10人しかいない茶の鑑定家ドレイトンと若い女の子だがディザート作りの名手ヘイリーがいる。それと路地で震えていたところをセオドシアに救われた愛犬のアール・グレイ、今では毎週病院でセラピー犬を務めている。愛車はドレイトンには不評な赤いチェロキーである。
チャールストンの歴史地区では10月後半、ヘリテッジ協会(チャールストンの歴史遺産を保護する民間団体)が後援して、個人の住宅を開放して観光客が見学できるツアーが開催される。今年の地区の「ランプライター・ツアー」の責任者は地区の邸宅に住む未亡人サマンサ・ラバサンで、ヘリテッジ協会の理事でもあり、他の地区のツアーに負けまいと頑張っていた。セオドシアは、ツアーの終着点にあるエイヴィス・メルバーン邸で大勢の来客を相手とするケータリングを請け負った。
庭園のテーブルに座っている男に、手伝いのヘンリーの友人べサミーがリフィルに行ったところ、男はカップを手にして死んでいた。べサミーは悲鳴を上げ、サマンサは卒倒した。男はカリフォルニアの不動産開発で財を成し、地元に戻って開発事業をしているヒューズ・バロンで、ティーショップの隣の歴史的建物ぺりグリンビルの開発も目論んでおり、評判の良くない男だった。
刑事バート・テッドウェルは殺人事件の捜査を始めた。べサミーが容疑者で茶に毒が入っていたという噂が広まった。ヘリテッジ協会で研修生として働いていたべサミーはティモシー・ネヴィル理事長に解雇された。セオドシアは犯人探しに乗り出し、弁護士のレイランド・ハートウェル(弁護士だった亡き父の元パートナー)にヒューズの調査を依頼、事務所の若手弁護士ジョリー・ディービスがヒューズの悪行を調べて伝えてくれ、チャールストンの南西ジョンズアイランドでケバケバしいコンドミニアムを開発し、地元のショアバード環境保護団体(代表タナー・ジョセフ)と係争中だと知った。ヒューズの相棒のレヴェッタ・ダンテもケンタッキーから逃げてきた男だった。レヴェッタとヒューズは片方が死ねば事業は生存者が継承するパートナー契約を結んでいた。
タナーはデザインも得意と知り、セオドシアはドレイトンがブレンドして売り出し予定の「クリスマスブレンド」のパッケージデザインを依頼する。タナーはべサミーとデートを始め店や事件を聞き出そうとする。
ヒューズの葬儀には親族は姪のルシールしかおらず、お悔やみを言うセオドシアに彼女は「別居している妻のアンジュリークはプロヴァンス(仏)から帰ろうともしない。部屋に残したもので欲しいものがあれば遠慮なく持って行って欲しい」と言われる。コンドミニアムを訪れると週一回通っている手伝いのミセス・フィンスターがおり、ヒューズは女と住んでいたようだ聞く。
セオドシアは、ティモシーがべサミーを解雇したのは、ヒューズと不適切な関係だったからだと聞く。また、テッドウェル刑事からヒューズの遺品からべサミーの指紋が出たと言われる。遺品は茶こしだったので、セオドシアは茶こしの販売伝票を調べた。ヒューズの遺品の茶こしに該当する可能性のある販売先はサマンサだけだった。
事情を聞きにサマンサ邸に行ったセオドシアは、サマンサが丹精を込めた庭の花を見て、枯れた花がヒューズの部屋にもあった事に気付いた。トリカブトである。全てを悟って出された茶を飲まないセオドシアに、サマンサは剪定鋏を振りかざして迫った。ヒューズを愛していたと。いつまでを離婚しようとしないヒューズをトリカブトで脅そうとしただけだったと。セオドシアはポットの熱湯をかけて逃れ、テッドウェル刑事に連絡。サマンサは逮捕された。
タナーが怪しく思えたのはセオドシアに夢中になって、彼女の情報を知りたかったからだった。事件が解明され、セオドシアは互いに信じあう仲間であるドレイトン、ヘイリー、べサミーと祝杯を挙げにリビーおばさんの農場に向かった。それからジョリーとデート。正装でオペラに出かける。