1992年発表のクッキング・ママシリーズ第2巻。作者はケータリング業の研究がひと際進んだようで料理やケータリング商売の心得に蘊蓄を傾けている。料理のレシピも10種類は付いている。サラダ、マフィン、キッシュ、スープ、ハンバーガーなどダイアンのレシピでフルコース料理が楽しめそうである。ダイアンのレシピは実際に何回も試作され熟成されたものだという。「そのため、同じ料理を毎日食べさせられる家族が犠牲になっている」とダイアンは書いている。
催淫作用のある食についても詳しい。チョコレートはとりわけ有名なのだそうな(知らないのはボクだけ? そういえば、仲のいい夫婦はチョコレートを好んでいるような気がしないでもない)。原題の「チョコレート熱望」は相手にその気になって欲しいという意味なのだろう。
だが、推理小説としては、いかがなものであろうか。上品で信望のある50才のレディが20年前の熱情を忘れ切れず殺人にまで行くものか?(だから、精神科医に通っていたと言われればそれまでだが)。
コンタクトレンズに過酸化水をつけて失明して事故死させるという殺人方法も冷静に考えればありえん。本格推理小説なら大問題だが、コージーなら批判するのは大人げないだけなのである。
ダイアンの詳細な筆致のお陰で、ゴルディの目を通してアスペンの食や社会生活、風景に触れる事が出来る。クッキング・ママシリーズの醍醐味である。
<ストーリー>
ケータリングを業としているゴルディ・ベアへの元夫リチャード・コーマンの嫌がらせは続いている。不安なゴルディはエータリング業が低調な夏の間、最愛の息子アーチを連れてフォークワ将軍邸で住み込みのコックとして働く事にした。フォークワ将軍はテロの専門家だがワシントンDCで疎んじられ、妻アデルがアスペン・メドウに持っている土地に邸宅を建て越してきたのである。アデルはゴルディの親友マーラの姉である。
フォークワ邸の雇人はゴルディの他にはジュリアン・テラーがいた。アデルが創設した奨学金でエルク・パーク・プレップ(私立一貫学校)に通っている。
ゴルディはトム・シュルツ刑事から求愛されて交流しているが、数カ月前から大学時代の同級生で精神科医のフィリップ・ミラーと付き合っていた。
エルク・パーク・プレップからプール建設資金集めパーティのケータリングを頼まれたゴルディは会場でフィリップと出会い、話があるというので町に行くことにし、フィリップの車の後をついていった。ゴルディの目の前でフィリップの車は突然迷走し、事故を起こしフィリップは死んだ。
隣りのハリントン邸でパーティがありゴルディはケータリングを依頼された。夫のブライアンは色男の開発業者で妻ウィージーは地元の資産家で結婚時広大な開発地をブライアンに譲渡していた。フィリップは環境保護活動をしておりブライアンの開発は妨げられていた。また、フィリップとウィージーは不倫の噂が広がっていた。ウィージーはゴルディにパーティのテーマは催淫だと要請した。
フォークワ将軍はテロの研究家だった。裏庭には武器庫があって、ジュリアンに手伝わせて爆発の実験をすることもあった。アーチはジュリアンに懐いて、ジュリアンもアーチの面倒をよくみてくれた。ジュリアンはユタ州の養子先が菓子屋なのでケーキ作りが得意だった。実の父母は知らなかったが探していた。モヒカン刈りでゴルディには小生意気な態度であった。
交際相手のシシー・ストーンは頭のいいジュリアンが大学に行き医者になる事を望んでいたが、ジュリアンはコックに興味を示していたので、彼女にはゴルディは迷惑な存在だった。
フォークワ邸でアデルの誕生日パーティが行われ、ゴルディがケータリングをし、マーチは最近夢中になっているマジックを披露した。手錠をしてプールに沈み、手錠を外して浮かび上がってくる技である。ゴルディが心配してプールに飛び込みぶち壊しにしてしまったのだが。
その翌日、ブライアンがプールに浮かんでいるのが発見された。
フィリップとブライアンの事故死を疑うゴルディはフィリップの事務所に侵入してスケジュール表を見る。フィリップはパーティに行く前にコンタクトレンズ洗浄のため眼科医に行っていた。意図的にコンタクトの過酸化水素水を洗い落とさないままにして、鎮痛剤で痛みを押さえておけば、ある時点で突然失明すると知った。
ゴルディのために捜査を始めたシュルツ刑事はユタに問い合わせてジュリアンの出生証明を送ってもらった。母はアデルで父はブライアンだった。犯人はアデルだと確信したゴルディはフォークワ邸に急いで戻った。アーチが心配だ。フォークワ将軍が意識朦朧で倒れており、他には誰もいなかった。
アーチを探して屋敷内を探し回ったゴルディは書斎でジュリアンの出生証明書を見付けた。そこにアデルが現れた。シュルツ刑事を呼んだ。アデルはゴルディとシュルツにエスプレッソを出して語り始めた。夫と死別して空虚となっていたアデルの前に現われたブライアンとの熱情の日々。もう、一度と願った。ジュリアンが生まれ養子に出したがブライアンは知らない。
事情を精神科医フィリップに話したら、フィリップはアデルが危険と判断し、アデルのターゲットに警告しようとしたので殺さざるを得なかった。取り戻せないと判ったブライアンは、投資話を持ちかけて呼び出し毒入りケーキを食べさせてプールに落としたと。
シュルツが倒れ、ゴルディを倒れた。エスプレッソに毒が入っていたのだった。水を大量に飲んでいくらか回復したゴルディはアーチを探しにエルク・パーク・プレップのプール建設現場に行く。シシーから殺されそうになっていたアーチを救い、フォークワ邸に戻った。屋敷には警官が来ておりアデルは武器庫に逃げていた。将軍が収集していた爆薬が爆発した。爆発を見てジュリアンが戻って来た。出生証明書を見て、父母はブライアンとアデルだと知り、考えようと山に入っていたのだった。
頼る先を失ったジュリアンはゴルディに弟子入りを願い、ゴルディも受け入れるのだった。