ダイアン・デヴィッドソン( 1949~ )はコージーミステリーを代表する作家の一人。コージーの世界を切り開いた作家の一人と言ってもいいだろう。1990年に本作品を刊行し、以降1~2年に1作品づつ「クッキング・ママ」シリーズを発表、2013年までに17作品を出している。デヴィッドソンの作品は本シリーズだけで(他に料理のレシピ本をだしているが)、2013年の作品「クッキングママの最後の晩餐」The Whole Enchiladaでシリーズを終了させた。だが、コージー界の著名作家なので新人作家の推薦文寄稿などではよく見かける。ハワイ生まれでコロラド州エヴェーグリーン在住。
2011年に本書の紹介(回想)でデヴィッドソンは語っている。()内は筆者注。
「バージニア・リッチが80年代初めに料理ミステリーを3冊書いていたが亡くなっており、当時料理ミステリはなかった。ケータラーを主人公にする作品(しかも、レシピまで提供する)は例がなく、出版社の反響は否定的で、そのうえ、家庭内暴力(当時、デヴィッドソンは家庭内暴力対策のボランティアに参加しており、創作の動機にもなった)を背景としているのでは暗すぎるという評価だった。出版したもののパブリシティーは全くないので、シスターズ・オブ・クライム(サラ・パレッキーが1986年設立、運営に寄与した女性推理作家育成普及団体)の仲間たちと書店巡りをした。ダンジョン・バー(TVゲームをしながら食べるために作られたクッキーで、本作品にレシピが付いている)をたくさん持ち込んだ。クッキーの好きな読者なら「Catering to Nobody」を買ってくれると思っていた。本書は出版後12年目に100万部を超えた。」
アスペンの風景、人々の生活を丁寧に描きながら、ケータリング稼業の実態、料理(レシピ付き)を語りながら、産婦人科医の暴力亭主から逃れた素人探偵ゴルディが必要に迫られて犯罪の謎解きに挑む本シリーズは典型的なコージーミステリーの構成となっている。だが、推理小説としての質の高さを看過すべきではなかろう(その分、読み易くはない)。
<ストーリー>
ゴルディ・ベアはコロラド州アスペン・メドウで「ゴルディロックス・ケータリング」というケイタリング業を営んでいる。産婦人科医の元夫ジョン・リチャード・コーマンの暴力から一人息子アーチを連れて逃れたゴルディは元夫からのあてにならない養育費だけでは生活出来ないのだ。
10月は予約が2件しか入っていなかったが1件加わった。小学校の教師でアーチを可愛がってくれていたローラ・スマイリーが自殺し、葬儀の後のレセプションのケータリングを頼まれたのである。ゴルディはアーチと居候のパティ・スーに手伝ってもらってレセプションに対応した。出席していた元義父のフリッツ・コールマンがコーヒーを飲んで倒れ、元夫のジョンはゴルディを非難した。警察は捜査を始め、ゴルディは事件解決まで営業停止とされた。ハロウィン、クリスマスシーズンに営業できなければ倒産である。ゴルディは事件解明に必死になり、担当のトム・シュルツ刑事は「共同で捜査しよう」と言ってくれた。
アーチとローラとの文通で残された手紙、ゴルディが憎からず思っている山奥で養蜂を営むポメロイとの交流から、ローラの死は自殺ではないと思い始めたゴルディはローラの家を探り、ローラが通うジムのロッカーを調べる。フリッツは20年前イリノイ州からアスペン・メドウに引っ越して産婦人科医院を開業したが、イリノイの大学に通ったローラはイリノイ時代のフリッツと縁がある事が判った。フリッツはイリノイで少女姦淫の問題を起こしていた。
暴力亭主だった元夫リチャードと違い元舅、姑のフリッツとヴォネットとは良好な関係だったゴルディはフリッツにイリノイ時代の話を聞きに行った。フリッツは話さなかったが、ヴォネットは連れ子(フリッツとヴォネットは共に再婚)のB・ホロンヴェックがグレて自殺した過去を語る。フリッツの強姦が問題となったが立証されることはなかったとも・・そして彼女の担当教師はローラだった。ローラは、フリッツの悪行を告げるホロヴェックの手紙を保管していた。故郷に戻った後、フリッツが引っ越してきたのに驚き、事件を起こせば手紙を公開するとフリッツに警告していた。
ゴルディはヴォネットから頼まれて、少女パティー・スーを同居させていた。親元から離れ、専門医フリッツの治療を受けるためだった。
ローラは、フリッツが治療と偽って姦淫している事実を知った。過去の事実と共に公表することをフリッツに告げた。フリッツとパティ・スーはポメロイの養蜂地近くの山中で逢瀬を重ねていた。事情をローラに教えたのはポメロイだった。
フリッツのローラ殺害を知ったゴルディは、フリッツに気付かれたと知りアーチと共にポメロイの養蜂地に逃げる。フリッツは銃を持って追い、皆殺しを図る。ゴルディを救ったのは、ゲームマニアのアーチがゲームからヒントを得て作った火炎瓶であり、蜂の来襲だった。
ポメロイは、彼の承諾なくアル中の妻を堕胎させたフリッツを恨んでいた。レセプションで、コーヒーに猫いらずを入れたのは彼だった。
トムに助けられ営業を再開したゴルディはクリスマスシーズンに間に合ってホッとするのだった。